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谷崎潤一郎の作品に必要だった「女」たち

デンジャラス

 

文豪、谷崎潤一郎の代表作「細雪」は、松子夫人の家族がモデルだったことは、よく知られているが、そのモデルの一人が、この「デンジャラス」の主人公重子である。「細雪」では三女の雪子として登場する。
 谷崎は芸術至上主義の作家だった。いい小説を書くためなら、家族も解体したし、たび重なる転居も繰り返した。松子夫人と再婚してからは、その係累の女性たちに囲まれるような疑似家族をつくり、男性たちはそれとなく排除された、と重子は語る。
 松子命が基本原理だったが、その陰で、重子は谷崎(作中では「兄さん」)に好意を寄せられていることにひそかに誇りを持っていた。姉妹は仲良く、安定した秩序が形成されていた。
 その秩序が一人の女性の出現によって崩れる。松子の実子だが重子の養子となった「息子」と結婚した嫁の千萬子に谷崎がひかれ、毎日のように速達で手紙を交換し、金も援助するようになる。姉妹と彼女との対立が、この作品の基調にある。

小説を書くためなら

 

姉妹の存在が「細雪」に欠かせなかったとしたら、千萬子は晩年の代表作、「鍵」や「瘋癲老人日記」の成立に、どうしても必要だったのだ。だが、姉妹の介入により、二人のコミュニケーションの回路は断たれ、日浅くして、谷崎は冥界に旅立った。
 『谷崎潤一郎=渡辺千萬子 往復書簡』谷崎潤一郎、渡辺千萬子著(中公文庫)が主要参考文献にあげられ、謝辞も渡辺千萬子氏に捧げられている。重子の眼から、千萬子はわがままで金遣いの悪い、とんでもない嫁として描かれている。そんな作品の執筆に渡辺千萬子氏が協力したのならば、氏もまた芸術に尽くしたかったのかもしれない。
 しかし、本書で書かれたエピソードを事実として受け止める訳にはいかない。谷崎が虚実一体の世界をつくったように、桐野夏生もまた同様の世界をめざしているのだから。


(BOOKウォッチ編集部 JW)
  • 書名 デンジャラス
  • 監修・編集・著者名桐野夏生 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 定価本体1,600円+税
  • 判型・ページ数四六判
  • ISBN9784120049859

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