トップアスリートが世界のある特定の地域に偏在しているのはなぜか。その秘密を探るべく、若き(なんと20代)著者アンカーセンは、彼の地へ飛んで、自分の眼で確かめようとする。行き先は、ジャマイカ、韓国、エチオピア、ロシア、ケニア、ブラジルの6ヵ国。その冒険心、探究心には脱帽する。
ジャマイカは、言わずと知れた、あのウサイン・ボルトの国。ここのところ、短距離種目で、有為な人材を輩出している。人口わずか240万人の小国で、しかも、首都キングストンのMVPトラック・アンド・フィールド・クラブで練習を積む選手ばかりが大活躍している。韓国では、パク・セリが登場して、ゴルフが大流行。とくに女子ゴルフはいまや世界のランク上位のうち韓国人が35%を占めている。エチオピアでは、人口わずか3万人のベコジ村から長距離の世界チャンピオンが次々に誕生している。ロシアではテニス熱がすごい。結果ここ2,3年で女子テニスの世界ランク上位25%がロシア人となっている。ブラジルはご存知サッカー。ヨーロッパチャンピオンズリーグでのブラジル人の活躍は目を見張るばかりだ。
6ヵ国訪問で最も目をひくのは、ケニアでの体験談。著者は現地でのトレーニングに参加するのだが、まさに悪夢。日本の体育会系根性トレーニングの比ではない。そもそも、ケニアという国では、トレーニングプランがない。ひたすら練習、練習、練習。脳から休めという指令が出ても、それはまだ限界ではなく、その先へ行くことで成果を得られることを彼らは知っている。だから、エンドレスの練習が続くのだ。マラソンの元世界記録保持者、ポール・テルガはいう「一緒にトレーニングすれば、僕たちがどうして勝てるのかわかるよ」
著者は、ケニアをはじめとして訪れた国で見聞したこと、体験したことから、トップアスリート誕生の秘密に迫っていく。そこでいったい何が行われているのか、興味深い事例には事欠かない。その事例を追うだけでも、本書を読む価値がある。さらに、アスリートばかりではなく、ビジネスにも適用できる「人材の宝庫(ゴールドマイン)」を築くための方法やコツを導き出している。それを8つのコンセプトに集約している。以下。
〔才能〕〔人材発掘〕〔訓練〕〔信念〕〔心構え〕〔指導力〕〔子育て〕〔モチベーション〕
一見しただけで、ゴールドマインを築くのがいかに難しいかがわかるだろう。しかし、ゴールドマインは実際にこの世の中に存在するし、著者はその眼で見てきている。たいそう困難ではあるけれども、実現可能なのだ。
書名:トップアスリート量産地に学ぶ 最高の人材を見いだす技術
著者:ラスムス・アンカーセン
訳者:清水由貴子/磯川典子
発売日:2012/12/15
定価:1785円(税込)