本書『北欧式 眠くならない数学の本』(三省堂)は、もともとはスウェーデンで刊行され、今では世界中で読まれているロングセラーだ。手と体を動かして数学を実感できるという構成になっている。本当に眠くならないのか?
本書の中には、読者に向けて、生活の中にある数学に興味を持ってもらえるような工夫が凝らされている。
例えば、アイスクリームの話題。3種類のアイスクリームから2つを選んで上下2段のアイスクリームを注文するとき、組み合わせはいったい何通りになるだろうか?上段と下段の順番を気にするかしないかでも組み合わせは変わる。上下段を気にしないなら3通り、順番を気にするなら6通りになる。これを、絵と数式でというより、ほとんど絵で説明している。
印象に残った例をもう一つ。世界地図の色の話題も面白い。隣り合う国が同じ色にならないように地図に色を塗るには何色あればよいか。実は、たったの4色だそうだ。この問題は、100年以上前に生まれた数学の問題で、昔から地図の製図業者は4色で足りることを知っていたが、数学的に証明されたのは、わずか40年前のことだという。この例でも、実際に塗り絵で確かめられるようにページが割かれている。
本書の著者、クリスティン・ダールは作家で編集者。大学で数学を専攻したが、机上の空論に思え中退し、その後は編集者の道を歩み、出版社Forskning&Framsteg社の代表編集者となった。本作は、そういう経歴の著者が、再び数学と向き合ってできた作品である。そして、本書の重要なエッセンスでもあるイラストを担当したスヴェン・ノードクヴィストは、スウェーデンを代表する絵本作家である。
3mと4mと5mの3本のひもを用意して、3人でそれぞれ端を持ってひっぱり三角形を作る。このとき、3mと4mのひもを持っている人のところにできる角度は何度だろうか。答えは、90度の直角になる。いわゆるピタゴラスの定理だ。現代の測距法でも重要な基本理論だという。本書には、数学的な公式も載っているが、これも絵で説明している。また、実は、ピタゴラスは複数の場所で同時に現れたとか、毒蛇と戦って蛇をかみ殺したとか、数学的な側面だけでなく、人物の逸話にも多少触れているのが面白い。
本書の著者は、「はじめに」で、数学の扉を開くキーワードは、「パターン」だと言っている。本書の中には、決まったパターンの例として、洋服のデザインでも使われるフラクタルという幾何学模様の仕組みや、素数が出てくる。素数で言えば、素数を見つける方法(エラストテネスのふるい)を編み出した人物、エラストテネスも紹介されており、彼についても、紀元前200年ごろに生き、図書館の職員だったことなども紹介されている。なお、本書では割愛されているが、エラストテネスは、はじめて地球の大きさを測ったことでも知られる人物である。
本書は、数学の理論を前面には出していない。そして、ピタゴラスの定理をひもで実際に作ったり、メビウスの輪を工作したりと、手と体を動かしながら読み進める構成になっていて、タイトル通りに眠くならないように工夫がされている。しかし、しっかり読むと公式や数学の理論や天文学に通じる話題も出ており、内容のレベルは決して低くない。ゆえに、絶対眠くならないかは、正直なところ分からない。
ただし、日ごろ忙しいビジネスパーソンにとっては、頭の体操的に読むと、普段の思考とは違った感覚が味わえるので新鮮であることは間違いない。とどのつまり、眠くなるかどうかは、人それぞれかもしれないので、皆さんも読破して、ぜひ「証明」してみてはいかがだろうか。
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