読むべき本、見逃していない?

「ザ・ガードマン」と「東京五輪」、こんなにも深い関係

  • 書名 警備ビジネスで読み解く日本
  • 監修・編集・著者名田中 智仁 著
  • 出版社名光文社
  • 出版年月日2018年6月14日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書・280ページ
  • ISBN9784334043605

 現代の私たちの生活では、その支えがなくてはならないと言えるほどに、警備ビジネスは社会のすみずみに広がっている。工事・建築現場での歩行者の誘導、オフィスビルで、商業施設では人の流れを見守り、鉄道の駅や空港などでは注意深く巡回を行っている。

 本書『警備ビジネスで読み解く日本』(光文社)は、社会への浸透度の割には知られていない警備業の実情を、その成り立ちからたどった歴史ともども、解き明かした一冊。日本の警備業界は、1964年(昭和39年)の東京五輪を飛躍のきっかけにして成長を果たしたが、2020年の東京五輪では、依存度はかつてと比べようもなく大きい一方、人手不足などの課題が山積。その振る舞いは、日本の未来をも左右するという。

警備業のビジネスモデルを開拓したセコム

 警備業が日本に誕生したのは1962年。この年、日本船貨保全(現「大日警」)と日本警備保障(現「セコム」)が相次いで創業した。産業史の解説などではしばしばセコムが「日本初の警備会社」とされるが、創業月はセコム7月に対し大日警が3月。厳密には「日本初」の冠は大日警のものだが、大日警が港湾関係の警備に特化していたこともあり、著者の田中智仁・仙台大学准教授は「現在の警備業のビジネスモデルを開拓したという点では、セコムが警備業の嚆矢(こうし)といえるでしょう」という。

 著者は、犯罪社会学・警備保障論を専門とする社会学博士。大学生の時に警備会社でアルバイトを始め、それ以降、業界と長くかかわるようになり研究対象の一つになったという。日本犯罪社会学会と日本社会病理学会を研究活動の場にしており、警備業による防犯活動の研究成果を犯罪社会学会で、警備員の労務問題の研究成果を社会病理学会で発表している。

 現代の警備大手セコムが創業した1962年といえば、日本は高度成長期の最中。当時もたらされた変化は数々あるが、大きなものの一つには働き方の変化が挙げられる。それまで多かった家業の従事者や自営業者が減り始め、雇用者が右肩上がりに増えていた。それが高じて、都市中心部への通勤者が増え、東京都内では、区部の昼間人口と夜間人口に差が顕著に。そこに警備の需要が生まれるようになったものだ。

 また、雇用者の増加により警備員の採用が容易になったことも見逃せない。セコムがまず始めた業務は、施設警備と巡回警備。いずれも人的警備であり、典型的な労働集約産業だった。

テレビドラマ「ザ・ガードマン」が後押し

 ニッチ産業として成長するかに見られた警備業だが、新興ビジネスだけにそうはうまくはいかなかった。用心棒的なイメージの問題もあったという。セコム創業者の飯田亮さんは、創業の際に父親から「幡随院長兵衛みたいなことはやめろ」といわれたほど。「用心棒」には反社会的存在のようなイメージもあり、営業に回っても「預けた鍵で泥棒されたどうするんだ」と怪しまれることもしばしばだった。セコムは約1年半にわたって自転車操業を強いられたという。

 低空飛行から一転する飛躍をもたらしたのが東京五輪だった。本書によれば、セコムなしでは、大会開催が困難だったかもしれないほどの大役を果たしたものだ。

 当時の五輪組織委員会は警備体制の構築に苦慮。選手村に警備の警官を配置する計画が立てられず窮余の一策としてセコムに依頼を出した。ジリ貧に陥っていたセコム側も万全の自信はなかったようだが「一か八かで選手村警備を受注」。だが、見事に成し遂げたことでマスコミからも注目を集める。大きな警備実績をつくりあげるのと同時に、それまでのネガティブなイメージを一新させ、抜群の宣伝効果を得られたという。

 警備業への注目が高まり、五輪の翌年には、テレビドラマ「ザ・ガードマン」(当初は「東京警備指令 ザ・ガードマン」)が放映開始。宇津井健さんらの活躍ぶりが人気になり、その後6年9か月にわたり続いた。また、警備産業の市場が有望視され、綜合警備保障(ALSOK)も65年に誕生した。東京五輪組織委員会の事務局次長を務めた村井順さんが創業した。こうして、東京五輪をきっかけにして「セコムとALSOK」(当時は「日警」と「綜警」)の2強体制がスタートした。

2020五輪警備は大手2社が中軸担う

 セコムと綜合警備保障はともに、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」のオフィシャルパートナー。前回の東京五輪とはうってかわり、当初から、この2社を中心に警備業界も警備体制の中軸を担うことが決定している。

 五輪の夏季大会の警備をめぐっては、前2大会連続で「人員」でのトラブルが発生している。12年のロンドン大会では、世界最大手の英警備会社「G4S」が1万4000人を配置する予定だったものが、4000人しか確保できなくなり、同国政府が軍から3500人を動員して緊急対応。G4Sは約100億円の負担を余儀なくされた。

 16年のブラジル・リオデジャネイロ大会では、警備会社の破産などで人員不足が判明。元警察官を動員するなどの措置がとられたが、スタッフ不足のまま大会に突入し観客の整理誘導がうまくいかない事態があったという。

 本書は、2年後の東京大会でもロンドンやリオでのように開会直前に警備員不足が発覚する可能性が「十分に考えられる」と指摘。東京大会での警備では、全国の100社以上が参加して共同企業体(JV)が設立されるようだが、著者は「遠方から東京へ出張してきて、付け焼刃の訓練で警備業務にあたる警備員も少なくないと予想される」と懸念を表明。「かりに必要人数の警備員が確保できたとしても、すべての警備員が事前のシミュレーションの通りに対応できるとは限らない」。

 足りない人手を補うためには、進化著しい警備ロボットやドローン、AI(人工知能)などの機器が大量に動員されることが考えられる。だが、ハイテク化は警備業界には諸刃の剣。ロボットなどを大規模に展開して成功すれば、一部ですでに深刻化している人手不足を改善するモデルになるだろうが、伝統的に警備員のそれぞれの専門性に依存する「人的警備」を業務にする会社が多い警備業界は質の転換を迫られる。

 ロボットやAIの低価格化が進めば人的警備はますます不利になる。それでも設備投資ができない警備会社は人的警備の存続を図り、ロボットに対抗するため警備料金を下げるだろう。必然的に警備員の労務単価が下がり「生活に困窮する警備員が続出すると考えられ『警備員の質の低下』は避けられない」と著者。警備業界が長く果たしてきた高齢者の受け皿としての機能も果たせなくなる可能性があるという。

 東京オリンピック・パラリンピックの警備は、人手不足を補うための「無人化」「機械化」のショーケースになるとみられている。大会後には「警備員がいる街の風景」が様変わりしているかもしれない。

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