なんとも奇天烈な表紙が目に留まり、手にしたのが本書『野蛮なアリスさん』(河出書房新社)だ。「私はアリシア。女装ホームレスとして四つ角にたっている。」という帯の文も気になった。
韓国・ソウルの郊外が舞台らしい。大規模マンションの建設をめぐり、住民らがもめている。主人公の少年、凶暴な母と年老いた父、そしてたくさんの食用犬。暴力と暴力的なイメージに満ちた世界が展開する。
著者のファン・ジョンウンは1976年ソウル生まれの女性作家。巻末の「日本の読者の皆さんへ」によると、2009年、ソウルの再開発地区だった龍山(ヨンサン)で住まいや商店を取り壊された住民5人と警官1人が火事で死亡するという事件があった。警察が民間の「追い立て屋」を使い、デモを鎮圧する中で起きたという。著者は裁判を取材するが、「再開発地区の欲望や組合員の物語を書こうとしてこの小説を書いたのではありません」と書く。
短い作品だが、正直言って、読むのがたいへんな作品だ。独特の文体と引用不可能な罵倒語の連続。韓流ドラマを見慣れている評者だが、韓国の底辺社会の闇の深さに、ためいきをついた。
訳者の斎藤真理子さんのあとがきが詳しく、作品を理解するのに役立つ。舞台の地区は、金浦空港近くのため、高層ビルの建築が禁止され、ソウル最後といわれる広い空地と農地が残っていたという。
また、大都会の女装ホームレスという人物像は、著者が2012年に大阪を旅行した時に見かけた人からインスピレーションを得たという。
韓流ドラマを見て、ソウルのどこまでも広がる巨大なニュータウンに圧倒されたことがある。その背景で、こうした物語が書かれたことを思えば、テレビは表層しか映さないと痛感する。読者から「非常にたくさん罵倒語を使う理由は何か」という質問に対し、著者は「罵るのは、罵るだけの理由があるから」と答えたことを斎藤さんは紹介している。
現代の日本文学とはまったく肌触りの異なる文学が韓国にある。
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