一般的に、発達障害、とくにADHD(注意欠如・多動性障害)気質を持つ人は、自分の信念を曲げられない傾向があるとされる。この特性は、「正義感が強い人」として好意的にとらえられることもあれば、一方で周囲から「面倒な人」として扱われてしまうこともあるという。この特性、そのままでいい? 何とかして矯正すべき......?
そんな悩みに解決のヒントを与えてくれるのが、中村郁さんの著書『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』(秀和システム)だ。
声優・ナレーターとして活躍する中村さんは、自身もADHD・ASD(自閉スペクトラム症)と診断され、発達障害の当事者として生きてきた。本書では、中村さんが人生の中で見つけたちょっとした工夫や考え方が、生きるためのヒントとして紹介されている。
BOOKウォッチでは、3つのヒントを抜粋してご紹介! これまでに、「散財グセ」と「雑談」をテーマにお送りした。今回は、ADHD特有の強い正義感と、それがもたらす周囲との衝突についての話だ。
(以下、本文より)
発達障害の傾向がある人は、正義感が強すぎることがあります。
とにかく曲がったことが嫌い。
ずるいことをする人がゆるせない。
誰かが傷ついているのをみると放っておけない......。
私自身、強すぎる正義感のせいで、何度も何度も他人とぶつかっています。
ちなみに私は、表面上いい顔をしているのに、裏でこそこそ陰口をいうような人間が、この世でいちばん苦手です。できることならそのような人には会いたくないのですが、残念なことに、そのような方が割とたくさん存在しているようです。
私は、自分の所属事務所のことを、事務所以外の人にグチったりする人を目の当たりにしたときには、たとえ立場が自分より上の方であっても注意してしまいます。
「グチがあるなら、直接事務所に伝えればいいじゃない」と思うからです。
また、私が大切に思っている人のことを悪くいう人がいたら、どのような立場の人であってもその場で全力で否定しますし、なぜそのような何の根拠もないようなことをいうのかと、強く問いただしたりしてしまいます。
ときには、大変なケンカになってしまうこともあるほどです。
自分の信念を曲げられないのは、発達障害を持つ人の特徴でもあります。
私は若いころ、まったく結婚願望がなく、とにかく一人でバリバリ仕事をして生きていくことだけを考えていました。自分がきちんと子育てできる自信もなかったし、何かにしばられて生きるのもイヤでした。
仕事が大好きだから、「何にも邪魔されず仕事したい」と思っていたのもあります。
そんな私にあるディレクターさんが一言。
「結婚もしない、子どももいないような人間に、いいナレーションは読めないぞ」
この瞬間、私は「なんという価値観の押しつけか!」と、ぶちギレてしまいました。
今現在なら、世間からもゆるされない発言ですよね。
私はぶちギレながら、自分の育った家庭環境についてもぶちまけ、ついには「あなたにそんなことをいわれる筋合いはない!」と、涙ながらに訴えました。
結果、ディレクターさんは謝ってくれましたが、その後、仕事をするうえでずっと気まずかったのはいうまでもありません。
私が20代のころは、まだまだセクハラもパワハラも横行しておりました。
私は、セクハラに対して、軽いものは軽く受け流してきましたが、究極の場では、泣きながら相手にぶちギレることでなんとか対応してきました。
強すぎる正義感は、いらぬ軋轢を生むこともあり、とても厄介で扱いにくいものですが、ときにその厄介な正義感が、私を危険から守ってくれました。
自分より上の立場の人にも屈することなく、立ち向かうことができた結果、自分を守ることにつながったと思っています。
ここでお伝えしたいのは、正義感が強すぎて人とぶつかってしまうあなたは、間違っていないということです。
あなたのなかのとても純粋な心が、あなたを、そしてあなたの大切な人を守ろうと、叫び続けているのです。
発達障害を持つ私の友人は、「仕事をしてもいつもまわりの人とぶつかってしまい、やめてしまうことになる」となげいていました。しかし、彼は曲がったことが嫌いでとても純粋な人間です。彼が悪いのではありません。その職場が合わないだけです。
上司の不正を知って、だまっている人と、不正を指摘して左遷される人とでは、一時的には前者が得をしたように見えるでしょう。
しかし、長い一生を終えるときに、自分自身に恥じることなく、にっこり笑ってこの世を去ることができるのはどちらの人間でしょうか。
あなたは、あなたの正義感に誇りを持ってください。
その正義感は短期的に見るとあなたを苦しめますが、長期的にはあなたを幸せに導いてくれる宝物です。
正義感にしたがって、生きましょう。
(以上、本文より)
■中村 郁さんプロフィール
なかむら・いく/ナレーター、声優 (株式会社キャラ所属)。生後すぐ、家庭の事情で祖父母に育てられる。幼いころより体が弱く、癇癪や、過剰に集中しすぎてしまう「過集中」、物忘れがひどく、ぐちゃぐちゃな毎日を送る。10歳で祖父が他界後、祖母と二人三脚の日々を送ることになるが、毎日涙を流し続ける祖母を励ます生活に自分の心も壊れてしまう。大学受験では過集中がプラスに働き、偏差値40を70まで上げて志望大学に合格するも、入学後は華やかな学生たちに馴染めず、人間関係も思考もぐちゃぐちゃに。アルバイトも、ADHD気質が災いし、すぐにクビになる。そんなとき、ナレーターの道をすすめられ、大学卒業と同時に現在の事務所に所属。ここでも過集中がプラスに働き、人の声が聞こえないほど集中するので、まったくかまずに読める。何かに没頭すると徹底的に調べまくる。さらに、表現力・国語力の高さが評価され、数々のオーディションに合格。プロとなって20 年間、産休以外で一度も仕事を休んだことがない。現在も、全国ネットのナレーションに多数出演し、複数のキャラクターで声優をつとめている。
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