本を知る。本で知る。

ドラマ化決定『パリピ孔明』は、実はタイムスリップしていない?【マンガでひらく歴史の扉 11】

パリピ孔明 1

 2023年秋にドラマ化が決定している『パリピ孔明』(講談社)。タイトルにもなっている「孔明」とは、言わずと知れた三国志に登場する天才軍師・諸葛亮のこと。彼が現代の渋谷にタイムスリップするという異色の設定で、人気を集めている。このマンガをきっかけに三国志に興味を持った人も多いのでは?

 東京都駒込にある、世界最大級の東洋学研究図書館「東洋文庫」のマンガ大好き学芸員・篠木由喜さんが、イチオシ作品の学芸員的読み方を紹介してくれるシリーズ「マンガでひらく歴史の扉」。今回は、篠木さんが三国志モノフィクションの魅力をたっぷり紹介する。

博物館資料保存論の授業で梱包の説明をするために煉獄さんのフィギュアを持って行ったら、学生に生温かい目で見られました。
博物館資料保存論の授業で梱包の説明をするために煉獄さんのフィギュアを持って行ったら、学生に生温かい目で見られました。

パリピも知ってる「三国志」

 五丈原の戦いで倒れた孔明は、気がつくとハロウィンまっただ中の東京・渋谷に。若者に連れて行かれたバーで駆け出しのシンガー・月見英子に出会い、歌声に魅了される。

篠木さん:『三国志』の諸葛亮伝の注には、黄承彦の娘を妻としたという記述のみがあり、名前まではわからないのですが、のちの創作で「黄月英(こう・げつえい)」という名前が定着しています。孔明、渋谷に来て奥さんみたいな名前の子と出会うんだ! ってところからもうエモいわけですよ......。
四葉夕卜 原作、小川亮 作画『パリピ孔明』1巻(講談社)
四葉夕卜 原作、小川亮 マンガ『パリピ孔明』1巻(講談社)
篠木さん:個人的にすごく好きなのが、冒頭、孔明が降り立った渋谷で、仮装している若者が「孔明じゃね?」と気づくところです。ハロウィンの日なので「孔明のコスプレ」をしていても違和感のない日だったんですね。一見歴史に詳しくなさそうな人の中にも、実は三国志好きがいる! っていうのがいいんですよ。さらに英子が働くバーのコワモテのオーナーも、大の三国志マニアなんです。実際、日本には江戸時代から三国志ファンがいっぱいいますからね。みなさんの周りにもいっぱいいるでしょう。え、いますよね?

 孔明は英子のマネージャーとなり、三国志モノフィクションに出てくる有名な策略を使って、英子をスターダムに押し上げていく。

篠木さん:三国志モノに親しんでいると、「こいつは裏切ったフリして後から戻ってくるな」とか、展開が読めるのも面白いです。敵陣に物理的に火を放った火計が、現代では相手をスキャンダルで炎上させるなんていうエピソードになるんですが、発想がすごいですよね。

 ただ、その策略が登場する順番が歴史上の時系列じゃないんです。たとえばマンガの最序盤に使われる「石兵八陣」は、三国志モノでは後の方に出てくる策です。だから、『パリピ孔明』から三国志のストーリーを理解しようとするのはちょっと難しいんですよ。

 でも、パリピ孔明が面白すぎるからこの機会に三国志を知りたい! と思っている方のために、今回はおすすめの三国志モノフィクション入門をご紹介します。

創作がふくらんで2000年

 三国志にはさまざまなバリエーションがある。登場人物たちとほぼ同時代(3世紀)に生きた晋の官僚・陳寿(ちんじゅ)が歴史書『三国志』を書き、100年くらい後の政治家・裴松之(はいしょうし)が様々な文献から関連する記述を引用し、注をつけた。注までをまとめたものが史書の「三国志」だ。その後、史書や各地に残っている逸話などを元に『全相三国志平話』などの創作がいくつも作られ、史書の成立から約1000年後の明代に書かれたのが『三国志演義』だ。

篠木さん:三国志モノの創作といえば『三国志演義』が有名ですが、それまでのたくさんあった創作の美味しいところをまとめた集大成という感じです。

 史書にはそれほど細かい記述はないので、いくつも創作が生まれる中で、黄夫人の名などの設定が付け加えられ、定着していった。現代にいたるまで、それぞれの作品に独自のエピソードや解釈が盛り込まれている。

篠木さん:少し脱線しますが、孔明の有名なエピソードの一つに、赤壁の戦いの際に祈祷して東南の風を吹かせ、火計を成功させたというものがあります。吉川英治さんの小説『三国志』では季節はずれの風、貿易風が吹くことを知っていたという解釈が加わるなどしていますが、史書の諸葛亮伝にはこのエピソード自体書かれていません。

 でも、『パリピ孔明』では祈祷をして風を呼ぶ。つまり、パリピ孔明の前世の記憶は創作上の孔明のものなんです。となると、『パリピ孔明』は、実はタイムスリップものではなく、創作の世界のキャラクターが現実にやってくる異世界転生ものなんです!(笑)

篠木さんの「推し」は?

 陳寿の『三国志』は、中国の歴史書のスタンダードな形式である「紀伝体」で書かれている。人物の伝記が一人ずつ並べられている形だ。

篠木さん:いきなり歴史書から入ると、知らない人がずらっと出てきて混乱してしまいます。たくさんの魅力的な人物が出てくるのが三国志モノの魅力の一つですが、9割知らない状態でその人たちの業績が語られても、なかなか頭に入ってこないですよね。なので、三国志は創作から入るのがおすすめです。マンガやゲームから入って、主要な人物やエピソードをざっくり押さえて、興味を持ったら史書に触れてみるという順番が圧倒的に読みやすいですよ。

 そこで篠木さんがすすめる三国志入門マンガが、寺島優さん原作、李志清さん作画の『三国志』(KADOKAWA)だ。

寺島優 原作、李志清 作画『三国志』1巻(KADOKAWA)
寺島優 原作、李志清 作画『三国志』1巻(KADOKAWA)
篠木さん:三国志モノマンガといえば横山光輝さんの潮出版社版が有名ですが、60巻もある大作です。一方、寺島さん原作のこちらの作品は全14巻で、主要なエピソードを押さえつつコンパクトにまとまっていて、初心者がストーリーを知るにはぴったりです。

 さらに、篠木さんが人物像にこだわるキャラクターが、将軍・趙雲(ちょううん)。孔明と同じく蜀の国の武将だ。

篠木さん:私の三国志との出会いはゲーム「真・三國無双2」だったので、趙雲がこのゲームのようなシュッとしたイケメンじゃないとダメなんです! 横山光輝さんの描く趙雲はどっしりと大きくて、李志清さんの趙雲は少し可愛い感じですがシュッとしたイケメン。私としては後者が嬉しいんです(笑)。

 趙雲は一言で言えば「実直な仕事人」。同じく蜀の将軍の中でも、プライドの高い関羽や粗暴な張飛に比べると、真面目さが際立つ。孔明が「わざと負けるフリをする」作戦を立てた際は、他の将軍は嫌がったが趙雲だけは作戦通りに動き、そのため孔明からの信頼も厚かった。

篠木さん:史書の注では、趙雲の容姿について「身長八尺」で「姿や顔つきがきわだってりっぱだった」としか書かれていません。この「きわだってりっぱ」の解釈ですよね。『三国志演義』だと濃い眉・大きな目・大きな顔・肉づきのよいあごという描写になるんですが......私のイメージは、そういう無骨な感じじゃないんですよね。

 二松学舎大学の中国文学科教授の伊藤晋太郎先生は、日本で最初のイケメン趙雲の登場は、1982~84年のNHK「人形劇 三国志」ではないかとおっしゃっています(※1)。川本喜八郎さん作の人形はどれも上品な顔立ちで、特に趙雲は爽やかな青年のような印象で、とても素敵なんです!

 現在でも、日本の三国志モノの中では、趙雲はイケメンキャラとして描かれることが多い。

篠木さん:三国志といえば蜀漢の劉備、関羽、張飛の3人がメインになりがちですが、「真・三國無双」はイケメン趙雲がメインビジュアルに使われていて、主人公格です。いやー、大正解! 新たな三国志ファンを獲得するのにものすごく貢献していると思います。

孔明たちはどんなものを食べていた?

 さらにもう1作品、変わり種の三国志ものをおすすめしてくれた。本庄敬さんの『三国志メシ』(潮出版社)だ。主人公の中(あたる)は、「楼桑村(ろうそうそん)」という中華料理店を営んでいる。楼桑村は劉備・関羽・張飛が「桃園の誓い」を交わした地。中は筋金入りの三国志マニアなのだ。

 料理の腕は悪くないものの、店は繁盛していなかった。そこへ、一人の老人がやってくる。その人はなんと、三国時代の仙人・左慈(さじ)だった。

本庄敬『三国志メシ』1巻(潮出版社)
本庄敬『三国志メシ』1巻(潮出版社)
篠木さん:中は「憧れの劉備や関羽、張飛に食べてもらえる料理を作るのが夢だった」と思い出し、仙人の左慈に三国時代に連れて行ってもらいます。そして、三国時代のご飯を研究したり、三国志の登場人物に料理を振る舞ったりもしていく中で、中の中華料理店も大繁盛店になっていきます。「薬食同源 孔明とお粥」というエピソードでは、北伐で疲れ切った孔明にお粥を食べさせるのですが......そんなこと、私もしてみたいじゃないですか! うらやましい。

 巻末にはレシピが載っていて、自宅で再現できます。作ってみたことはまだないです......(笑)。胡椒餅が登場した時は、食べたすぎて通販で買いました。

 ちなみに今、東洋文庫ミュージアム併設のオリエントカフェでは、「東洋の医・健・美」展に合わせて、中国の「杜仲茶」を使って育てた豚のソテーを提供しています!

 もちろん東洋文庫には、史書をはじめさまざまな三国志関連書籍が所蔵されている。日本人になじみ深い『三国志』史書の記述といえば、「魏志倭人伝」ではないだろうか。

陳寿撰、裴松之注『三国志』魏書 280年頃成立 1739(乾隆4)年刊
陳寿撰、裴松之注『三国志』魏書 280年頃成立 1739(乾隆4)年刊

 江戸時代に大人気となった、葛飾北斎が挿絵を描いた『絵本通俗三国志』もあるが、北斎の趙雲は、篠木さん的には?

篠木さん:う~ん......解釈違い。

 申し込めば閲覧ができるので、ぜひその目で確かめてみてほしい。


「東洋の医・健・美」展

【会期】2023年5月31日~9月18日

みなさま、日々健やかにお過ごしですか。身体に痛いところはありませんか。昔より風邪が治りにくくなった、漠然とした病気への恐怖に日々怯えている、そんなことはありませんか。
本展では、古来アジアの人々がどのように、不調や怪我、病気と向き合ってきたのかを、東洋文庫が所蔵する医療史の名著でたどります。この企画展が、あなたの知的好奇心を満たすサプリメントのようになれば嬉しいです。
〈東洋文庫〉
1924年に三菱第3代当主岩崎久彌氏が設立した、東洋学分野での日本最古・最大の研究図書館。国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊を収蔵している。専任研究員は約120名(職員含む)で、歴史・文化研究および資料研究をおこなっている。

※1 二松学舎大学「三国志の英雄 人気の秘密 第1回 趙雲」(2023年6月19日最終確認)
https://www.nishogakusha-u.ac.jp/gakubugakka/special/chubun01/01.html



   
  • 書名 パリピ孔明 1
  • 監修・編集・著者名四葉 夕卜 原作、小川 亮 マンガ
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2020年4月 8日
  • 定価726円(税込)
  • 判型・ページ数B6判・176ページ
  • ISBN9784065192191

アニメ・コミックの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?