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身長は変わらないのに、身体が「小さくなった」。トランスジェンダーが語る性別移行の実感

埋没した世界

 出生時に男性を割り当てられたが、現在は女性に埋もれて生きている、ノンバイナリー/トランスジェンダーの五月(さつき)あかりさん。出生時に女性を割り当てられたが、現在は男性をやっている、トランス男性の周司(しゅうじ)あきらさん。2人は2022年の春から夏にかけて、ブログ上で手紙を交わした。

 そのやり取りが、一冊の本『埋没した世界 トランスジェンダーふたりの往復書簡』(明石書店)になった。身体のこと、セクシュアリティのこと、マイノリティとマジョリティ。トランスジェンダーの人々は、どんな現実を生きているのだろうか。

男性たちに見下ろされているように感じる

 1通目の手紙「あかりより(1)――小さくなった身体」には、性別を移行した身体について、こんなことが書いてある。

聞いてください。わたしの身体は小さくなりました。

 性別の移行では、身長は変わらない。それどころか、胸部や臀部が膨らみ、物理的には大きくなる。しかし五月さんは、「かつて男性だった時と比べて、男性たちと同じ空間にいるときのわたしの身体は、明らかに小さくなりました」と語る。職場の男性たちといると、文字通り見下ろされているように感じる。女性たちとランチへ行くとき、これまでは自分だけが異様に大きく感じていたが、今は自然な大きさになった、と。

 これを受けて、周司さんは「とても『わかる』」話だったと返した。

いうなれば私は逆だからです。脂肪は落ちて、血管が浮き出てきて、心なしかお尻が縮んで、胸を削ぎ落として。(中略)私は「小さい男性」の一員であるようなのです。

 2人の手紙には、トランスジェンダーの目を通して見えること、感じられることが、つぶさにつづってある。

 周司さんは、自身のブログ「周司あきらの自省録‐トランス男性と男性学」で、シスジェンダー(心の性と身体の性が一致している人)も含めて「全員が当事者」だと語っている。なぜなら、全員が「何らかの性別を付与されて性別だらけのこの世界を生きている」からだ。

なぜあなたはシスジェンダーなんですか? 性同一性ってあります? あなたが女あるいは男をやれているのはなぜ?

(周司あきらの自省録‐トランス男性と男性学「トランスジェンダーを知ろうとしても、『埋没した世界』は誰も逃さない。」より)

 2人の対話を見つめながら、自分の「性」について問い直してみるのはどうだろうか。

【目次】
第1章 身体がはじまる
第2章 身体は通過(パス)する
第3章 思春期はまだない
第4章 性同一性を持たない
第5章 あり得たかもしれない
第6章 好きは嫌いです
第7章 時間は絶たれる
第8章 復讐する
第9章 愛してる?
第10章 関係は変わる
第11章 場を分散させる
用語集

■五月あかりさんプロフィール
さつき・あかり/都内のOL。いつの間にか生活が男性から女性になった人。性同一性は「無」。

■周司あきらさんプロフィール
しゅうじ・あきら/主夫、作家。生活が女性から男性になった人。性同一性はないが、性別を聞かれたら「男性」でいい。単著に『トランス男性による トランスジェンダー男性学』(大月書店)。



   
  • 書名 埋没した世界
  • サブタイトルトランスジェンダーふたりの往復書簡
  • 監修・編集・著者名五月 あかり、周司 あきら 著
  • 出版社名明石書店
  • 出版年月日2023年4月15日
  • 定価2,200円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・344ページ
  • ISBN9784750355467

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