ラジオDJとして25年間、第一線で活躍し続ける秀島史香(ひでしま ふみか)さん。じつはもともと、緊張しがちで人見知りで心配性な性格という。
本書『なぜか聴きたくなる人の話し方』(朝日新聞出版)は、そんな秀島さんがラジオ現場で培ってきた日常の聴く・話す場面で役立つ33のコツを1冊にまとめたもの。
BOOKウォッチでは、『なぜか聴きたくなる人の話し方』のポイントを、書籍からの試し読みもあわせて3回に分けてご紹介。2回目は、「相談したくなる人 『お隣目線』のジェーン・スーさん」の試し読みをお届けする。
「家族や友人には言えないけれど、相談に乗ってください」......。独特の距離感の心地よさからか、ラジオ番組には切実な悩みをつづったメッセージが寄せられるという。
秀島さんがリスナーの立場だったら相談に乗ってほしい人として、ラジオパーソナリティ、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんの名前を挙げている。秀島さんから見た(聴いた)スーさんの魅力、ぜひマネしたいふるまいとは?
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■「お隣目線」のジェーン・スーさん
(前略)
スーさんの魅力は、愛を持って相談者の言葉を受け止めているのが伝わってくること。上からでも下からでもなく「お隣目線」。
お悩みが紹介されている途中も、決してさえぎったりしません。すべて聞き終えてから、「それはつらかったですね」「よくぞここまでご自分で分析して、書いてきてくださいました」「ちゃんと向き合っていらっしゃいますね」とまずはしっかり受け止める。そして「私の考えでは......」とアドバイスを語るときも、あくまでフラットな視点です。そこに「今から言うことをよく聞いて」という押しつけがましさは一切ありません。
ラジオに限らず相談を受けるときは、いかに相手に寄り添えるかが鍵となりますが、スーさんの場合はそれだけじゃなく、解決へのゴールに向かって伴走するような言葉がけなのです。
ときに「◯◯さん、もうちょっとしっかりしてくださいね!」「いったん距離をとって、冷静になってみてはどうでしょう?」と、相談者さんにとってチクリと耳の痛い言葉も出てきますが、そこには思いやりがあります。「ちょっと寂しかったのかな」「きっと頭ではわかっているんでしょうけどね」とフォローも忘れません。
さらには自分の意見だけではなく、問題を俯瞰して、「自分一人でやろうとしないで。プロの専門機関もありますから」と、第三の視点も提案したり。
そして「何かあったら、またメールくださいね」とやさしく締めくくり、後日報告や追加の相談が来れば、きちんと紹介する。そこに、別のリスナーさんからの経験談や励ましの言葉、アドバイスが寄せられて、あたたかい「場」が生まれています。
■「相談の達人」に共通する2つのこと
スーさんのような「相談の達人」に共通するのは、(1)話を最後まで聞く、(2)相手のこんがらがった考えを整理する(けど、まとめない)。どちらも愛を持って行っていること。
相談がうまい人は聞き上手。「うん、うん」とあいづちを入れながら、「話を最後まで聞ききる」のです。ポイントは「最後まで」というところ。
これが案外、難しい。悪気なく相手の話を中断してしまうことがあります。ひと通り状況がわかったと思うと、つい、「自分にも同じ経験があって......」と話し始めてしまったり、そこまでの話をもとに勇み足で的外れなアドバイスをしてしまったり。相手の本当の悩みは、今話していることの先にあるかもしれないし、さらに枝分かれしているかもしれません。
そこで、誰かから相談を受けたとき、話を打ち明けられたとき、ラジオDJがリスナーからお悩み相談を受けている、という設定に自分を置いてみるのはどうでしょう。
リスナーお悩み相談では、DJは、まずメールを読みます。その際に大事なのは、最後まで読みきること。つまり、そうやってまずは相手の悩みを最後まで聞ききっているわけです。そして、ただ「聞く」だけじゃなく、スーさんのように「なるほど、しっかり受け止めました」と言葉で表すこと。
■アドバイスにまっしぐらだった過去の私
「やりがちだから気をつけて」という例を私の過去の失敗でお話ししますね。
新年度の時期になれば、ラジオ番組には、「新しい環境で友人ができるか心配です」というお悩みが増えます。駆け出しの頃の私は、「よっしゃ、まかせとき!」とばかりに、「心配しなくて大丈夫! 例えば、こんなふうに話しかけてみたら?」と、会話フレーズ例などを紹介していました。「ふぅ、今日も一件落着」なんて思っていたのですが、あるときディレクターにこのように指摘されました。
「それも役立つかもしれないけど、まずはお悩みを一緒に感じるだけでも、相談者さんはうれしく思うんじゃないかな。何かアドバイスするのは、それからのほうが受け入れやすいのでは?」
これにはハッとしました。
「秀島さんなら、どうしますか?」
「アドバイスがあれば、お願いします!」
と、お悩みメールの最後には、たいていこんな言葉があります。だからといって、すぐアドバイスに走りません。
<私なら、○○するかな>
<○○するのがオススメ!>
と前のめりになるのではなく、まずは、
<たしかに不安になりますよね>
<それは悩ましいですね>
<それはつらい気持ちになりますよね>
と、しっかり言葉で受け止める。何かアドバイスができそうだと思っても、一緒に解決法を考えるにしても、あなたの話を理解しましたというサインを出して、安心してもらってから。
相手はただでさえ弱っているのですから、たとえ「あなたにもよくないところがあったんじゃない?」と感じたとしても、いきなりズバリ指摘することが必ずしも正解ではありません。よかれと思ってパッと頭に浮かんだ解決策を伝えたところで、相手は「それはわかっているけれど」と心を閉ざしてしまうことも。
まずはしっかりと話を「聞ききる」。これだけで十分喜んでもらえることもあります。
そして二つ目のポイント。相手の話を聞きながら、考えの交通整理を手伝ってあげると、何に悩んでいるのか、問題点も見えて、本人の気持ちもスッキリしてきます。
一人で悩んでいると、どうしても感情や考えがごちゃまぜになって、話が堂々巡りになってしまいがち。そんなときは、相談者の話を「うんうん」「そうなんだね」と邪魔せず聞きながら、
<なるほど、心ない批判を受けて嫌だなって感じたんだ。たしかにしんどいね>
<そうか、今の仕事が合わないって思っている理由は、ひとつじゃないんだね>
と、相手が話した内容を確認していくと、お互いの頭の中がクリアになっていきます。
そうはいっても、無理やりまとめようとはしない。「要は」「つまり」とくくってしまうのは、「一言でまとめられても......」と相手に不満が残ります。
また「ほんと、やんなっちゃうよね~」など、"とりあえず"なフレーズで返すのも、「話をちゃんと聞いてくれていたのかな」と不安にさせてしまいます。
強引にポジティブに持っていく必要はもちろんありません。でも、そもそも相手は悩みを一人で抱えきれずにあなたに話しているわけですから、さらに不安にさせないようにしたいもの。
私が誰かに悩み相談する状況を思い浮かべてみると、思考がこんがらがって動けなくなっている今の状態から抜け出したい、という気持ちが一番大きいように思います。誰かに話を聞いてもらうことによって気持ちが軽くなって、広い視点で状況を見られるようになったりして。
きっと悩みを寄せてくれるリスナーも、 "自分で"先に進んでいくために、ひとときの伴走者にDJを選んでくれているのでは、と思います。
「よし、一発解決して進ぜよう!」と張り切るのではなく、まずは「聞ききる」。相談を受けたら、自分が相手にできることを確実に。
相談者さんが「少し気持ちが軽くなった」「頭の中が整理された」と感じてくれたら大合格点とします。直接の解決につながらなくても、あなたがしっかり聞くことで「私には相談できる人がいる」と相手も心穏やかになるもの。悩める人を支える方法は、こんなにもやさしく「聞ききる」ことでもあるんだなと、スーさんの相談を聞きながら思います。
【ここまで聴いてくれたあなたへ】
相談を受けたらしっかり「聞ききる」。
それだけで、相手を支える力になる。
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次回も書籍から、「憑依が心のキャパを広げる 福山雅治さんの『近さ』の秘密」の試し読みをお届け。お楽しみに!
■秀島史香さんプロフィール
ラジオDJ、ナレーター。1975年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大学在学中にラジオDJデビュー。J-WAVE『GROOVE LINE』、NHKラジオ『英語で読む村上春樹』をはじめ、NHK総合『着信御礼!ケータイ大喜利』『BSコンシェルジュ』などのテレビ番組にも出演。映画、テレビ、CM、アニメなどのナレーション、プラネタリウム、美術館音声ガイド、機内放送、EXILE『Ti Amo』や、絵本朗読CD『おとえほん』に参加するなど多岐にわたり活動している。現在FMヨコハマ『SHONAN by the Sea』、JFN系列局『Please テルミー!マニアックさん。いらっしゃ~い!』、NHKラジオ『ニュースで学ぶ「現代英語」』、NHK Eテレ『高校講座 現代の国語』などに出演中。ニッポン放送『文豪ROCK!~眠らせない読み聴かせ 宮沢賢治編』で令和元年度(第74回)文化庁芸術祭ラジオ部門・放送個人賞受賞。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)。ハスキーで都会的な声質、あたたかい人柄とフリートークが、クリエイターからリスナーまで幅広く人気。
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