2021年4月4日に脚本家・橋田壽賀子さんが95歳で他界したことは記憶に新しい。名プロデューサーの石井ふく子さんは、橋田さんと最も親交が深く、長年、仕事をともにしてきた人物だ。そんな石井さんが、橋田さんが亡くなった後、初めて思いを綴った。
8月27日『家族のようなあなたへ――橋田壽賀子さんと歩んだ60年』(世界文化社)が発売された。石井さんが、初めて橋田さんとコンビを組んだのは1964年。香川京子さんと山内明さん主演の『袋を渡せば』という作品だ。「袋」とは給料袋のことで、給与が現金支給だった当時の夫婦間の交流を、ホームドラマとして描いた。
その後、東芝日曜劇場で初の「前・後編」として放送された『愛と死を見つめて』は空前の大ヒットとなり、『心』『女たちの忠臣蔵 いのち燃ゆる時』『おんなの家』『源氏物語』など数々の名作ドラマを二人三脚で世に送り出してきた。『渡る世間は鬼ばかり』は、1990年の放送開始から2019年までの超・長寿番組となった。
石井さんと橋田さんは30代半ばで出会って60年以上もともに歩んできた。お互いのことがわかるように感じたのは近年のことだという。石田さんはその心境を「あとがき」で次のように語っている。
「ホームドラマを作りたい」「家族そして人間を描きたい」30代半ばで出会った私たちの志は図らずも一致していました。けれども、相手が何を考えているかなんとなくわかるようになったのは、近年のことです。たくさん喧嘩して、ぶつかり合って......ようやくです。気がついたら、私たちのライフワークは60年、続いてきました。誰でも最初は知らぬ者同士。伝えなければよりよい人間関係はできません。私たちは率直すぎたぐらいかもしれませんが、その分、わかり合うことができるようになりました。私と橋田さんが歩んできた道を通して、何か伝わればこれに勝る幸せはありません。「今まで本当にありがとう。またね!」
(『家族のようなあなたへー 橋田壽賀子さんと歩んだ60年』あとがき より)
1つ年上の橋田さんが、石田さんのことを「妹」と呼んだエピソードも。
あれは......橋田さんが亡くなるひと月前のことです。(中略)「あんたは私より一つ下。私はあんたの一つ上なんだよ」唐突にそう言いました。年齢のことを言い出したのです。「そんなのわかってるわよ」言い返す私に、「あんたよか、お姉さんだよ。だから、姉の言うことは聞くもんだ。あんたは妹なんだから」(中略)そんなことを言われたのは、その時が初めてで最後でした。お互い大人ですから、相手のことを思い遣ってはいても、なかなか口幅ったいことは言えないものです。橋田さんの「あんたは妹」というひと言は、彼女が私のことを家族のように思っていたことを、私に伝えたい、わかっていてほしい、という「遺言」のようなものかもしれません。
(『家族のようなあなたへー 橋田壽賀子さんと歩んだ60年』プロローグ 私を「妹」と呼んだあの時 より)
■ 目次
プロローグ 私を「妹」と呼んだあの時
第1章 私たちを結びつけたもの
第2章 喜びと悲しみと
第3章 「渡る世間」と私たち
エピローグ 幻のラストシーン
あとがき
脚本家でありながら、テレビ出演などでお茶の間でも人気を博していた橋田壽賀子さん。本書には、石井さんが語る貴重なエピソードに加え、60年間の歩みがわかる写真も満載だ。「人は、ひとりじゃない。」ふたりの絆に胸が熱くなる。
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