本を知る。本で知る。

「つくる」と「届ける」の分断。作り手の部品化とは?

 広告大手の株式会社博報堂(本社:東京都港区、 代表取締役社長:水島正幸、 以下博報堂)が発行する雑誌『広告』が、またしても特徴のある装丁で最新号(Vol.415)を発売した。

 同誌は「いいものをつくる、とは何か?」をテーマとして2019年にリニューアル創刊。当時、リニューアル創刊号で「価値」を特集し、同誌を通貨の最小単位「1円」で販売。同時に1円で買えるものを集めた1円ショップも展開して話題を呼び、「1円の価値」をキーに「価値」についてクローズアップした取り組みが記憶に新しい。

写真は、『広告』(Vol.415)(博報堂)/撮影:BOOKウォッチ編集部

『広告』最新号(Vol.415)の特集は「流通」

 『広告』最新号(Vol.415)の特集は「流通」。同誌が手元に届くまでの流通経路を、全250種類の表紙によって可視化する試みに挑戦している。

 編集部では、2種類の表紙を入手。どちらも流通パターンが違っていた。

写真は、表紙に描かれた流通パターンの違う2冊の『広告』(Vol.415)/撮影:BOOKウォッチ編集部

 なお、表紙にプリントされたQRコードをスマホで読み取ると、同誌の流通経路が地図で表示されるようになっている。

 モノが作り手から消費者に届くまでが可視化される取り組みだ。『広告』編集部は次のように考えているそうだ。

「より早く」「より安く」を追求し、 時間とコストを"ゼロ"に近づけようとする現代の「流通」に対する問題提起です。 この装丁をとおして商品が手元に届くまでの人の営みやものと流通の関係に目を向けるきっかけとなれば幸いです。

装丁は梱包した段ボールそのもの

 同誌を手にして真っ先に感じることは、装丁が一味違うこと。まるで発送用に梱包した段ボールそのものなのだ。なんと、独自開発の「段ボール装」を採用しているという。

 ぱっと見では、中には「本」が別に入っていると思って、表紙の段ボールをビリビリと破ってしまうかもしれない(これから手にする方は、ゆっくり開封することをおすすめする)。なお、この装丁は、そもそも「ものを大切にする」ということに思いを巡らすきっかけを提供しているのかもしれない。うっかり破って後悔しないようにご注意を。

 テーマに合わせて装丁も価格も判型さえも変えるのがリニューアル以降の同誌の特徴のひとつ。同誌編集長の小野さんは、きっと要所要所にアイディアを巡らせ、いいものをつくるというコンセプトを徹底的に表現していそうな気もする。

写真は、装丁に段ボールを採用した『広告』(Vol.415)/撮影:BOOKウォッチ編集部

「つくる」と「届ける」の分断。作り手の部品化

 同誌の冒頭で、小野さんは次のように記している。

「マーケティングの発明によって、もうひとつ加速したものがあります。それが冒頭にも書いた、「つくる」と「届ける」の分断です。自分のためだけにものをつくる場合を除くと、つくられたものを受け手に届ける行為は、つくる行為と不可分であることは明らかです。しかし、マーケティングにおける区分が、ひとつの組織の中に、ひいては産業全体に分断を生んだのです」
(中略)
「ものが同じでも、いつどのように手に入れるかで、そのものの価値の感じ方は異なります。「ものづくり=価値づくり」だとすると、「つくる」と「届ける」が有機的に結合した状態として「ものづくり」を捉えるほうが本質的なのではないでしょうか。しかし、いまの社会では「製造業」と「流通業」と言われるように、このふたつを別の産業だと捉えることで「ものづくり」の意味が矮小化されてしまっているのです」

 この引用だけ見ると、小野さんがマーケティングを否定しているように読めてしまうが、小野さんの文章全体を読めば、決してそうではない。

 ここで小野さんの言葉を引用したのは、「「つくる」と「届ける」が有機的に結合した状態として「ものづくり」を捉えるほうが本質的」という部分。これは、製造業だけでなく、多くの業種でも当てはまるのではないだろうか。
 当メディア、BOOKウォッチにおいても、例えば、取材先や情報提供各社から入った情報が、当編集部を経て記事になり、その後はBOOKウォッチ記事の掲載先各社、そして読者へと情報が伝達されていく。この記事も、BOOKウォッチ本体サイト以外で閲覧している方も多いのではないだろうか。

 本号は、「つくる」と「届ける」を意識して「いいものをつくる」という考え方に改めて思いをはせ、同時に、プロダクトアウトに偏っていないかなど、バランスを考える契機にもなるだろう。

錚々たるメンバーが登場

 本誌の主な収録内容は以下の通り。錚々たるメンバーが顔を並べている。

・流通と社会 ~ 経営学者 石井淳蔵 ×『 広告』編集長 小野直紀
・アマゾンがなくなる日
・68 世界的ラグジュアリーブランドのなりたちと展望 ~ エルメス前副社長 齋藤峰明 インタビュー
・「韓流ブーム」から「アジアで独り勝ち」へ ~韓国ポップカルチャーを加速させた新しいシステムと新しい流通
・メディアに対する映画監督の目線 ~ ニコラス・W・レフン、 岩井俊二 インタビュー
・CDとレコードと、 曽我部恵一の音楽
・「よい本」が生まれる環境を、 出版流通から考える
・「ことば」と流通 ~ 劇作家・小説家 本谷有希子 インタビュー
・アップルの流通戦略
・タンザニアの商人とオルタナティブな経済 ~ 文化人類学者 小川さやか インタビュー
※ほか全30記事を収録。


 最新号の『広告』を手にし、思い返したラジオ番組がある。

 先般、FMヨコハマの「ちょうどいいラジオ」(月~木 6:00~9:00am)という番組で、「送料無料」という表現について話題となっていた。DJの光邦さんと、コーナー担当の若松さん(はぴねすくらぶ)によると、暮らしを支える運送・流通業に携わる方の仕事の価値を大切に考え、そのコーナーでは送料無料とは言わずに「送料は弊社負担」と表現しているそうだ。たしかに、「届ける」ことは無料の仕事ではない。
 何気なく使われている言葉の一つ一つにも、「届ける」ところまで大切にする思いが込められていることに気づかされる放送だった。


 なお、雑誌『広告』は、特徴のある装丁だけでなく、魅力あるテキストやインパクトのある写真も多く綴られている。ぜひ、手に取って、流通経路の確認だけでなく中面も楽しんでみてほしい。


(BOOKウォッチ編集部 編集長 木村寛明)


雑誌・ムックの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?