タイトルからして衝撃で、とても気になってしまった。そんな本がある。
発売10日で早くも11万部を突破し、巷で話題になっている『夫のちんぽが入らない』(こだま著、扶桑社刊)だ。
ふざけてなんかひとつもいない。これは事実の物語だ。手に取ってページをめくると、作者であるこだまさんの叫びが聞こえてくる。
「本気で言っている」
「こんなこと軽々しく言えやしない」
「そんなことを相談するくらいなら、押し黙ったまま老いていきたい」
同じ大学に通い、同じアパートに住んでいた2人は出会ってすぐに付き合いはじめ、大学卒業後、夫婦になった。しかし、20年以上も入らずにいる。それに、問題はそれだけではない。仕事や病など、次々と襲いかかる事態に一つ一つ向き合っていかなければいけない。
■頭を下げさせてしまった母親に「ただ謝りたかった」
この記事の筆者である私が女性だからなのかもしれないが、とても強烈に印象に残ったところがある。こだまさんが“出産”と対峙する姿だ。
付き合って結婚し、子どもが生まれる。それは「当たり前のこと」として見られる。普通なのだ。でも、この夫婦はその普通がない。そもそも入らないので自然に妊娠することができない。
こだまさんの義理の兄夫婦が結婚5年目で子どもを授かった。義理の姉は生まれつき心臓に病を抱えていて、身体の負担が大きい出産は難しいと思われていた。しかし、どうしても諦められず、1年間の不妊治療を経て妊娠。その連絡をくれたのは、念願の初孫に嬉しさを隠しきれない様子の義母だった。
義姉は、こだまさんから「妊娠は無理かもしれない」ということを聞かされていた。だから直接連絡しにくかったのだろう。
周囲に気を使わせていることが、こだまさんを苦しめる。このことをきっかけに不妊治療を始めたが、そもそも患っていた病気の薬を止めることになったことで身体に不調をきたし、長くは続かなかった。
とても酷に感じたシーンがあった。作者のこだまさんが母親とともに、夫の両親へ妊娠できないことを謝りに行くところだ。
妊娠できない理由が「ちんぽが入らないから」とは誰も知らない。でも、こだまさんの目の前にあるのは、自分の母親が「子供ができないこと」で頭を下げている光景だ。
母に頭を下げさせてしまったこと、そしてそんな母を恥ずかしいと思ってしまったこと。「ただ謝りたかった」と、こだまさんは正直につづる。真面目で、優しくて、全部自分が悪いのだと責任を負ってしまう彼女に愛おしさを感じたとともに、心がぎゅっと苦しくもなった。
■夫のちんぽだけが入らない。それでも夫婦でい続ける絆
もう一つ、胸を突かれる部分がある。
こだまさんとのセックスができないため、夫は風俗店に出向い、デリヘルを呼んだりする。好きな相手とできないから、外で欲を満たしているのだ。
そうした夫に対し、こだまさんは見て見ぬふりをし続ける。それを嫌だと思いながらも。
死にたくなるくらい夫を想う気持ちはまぎれもない愛情だ。ただ、その一方で夫がしたいことはしてあげようと認め、風俗に行っても咎めない健気さが、切なさを増す。
実は、入らないのは夫のものだけである。仕事のストレスから心を病んだこだまさんは、ネット上にアップしていた日記を読んでいた男たちと逢瀬を重ねるが、普通にセックスができたのである。
ただ、そんなことがあっても、この2人は夫婦でい続けた。
お互い入らないことを分かっていて結婚を選び、ともに道を歩んでいる夫婦なのだ。深い部分でつながっている絆がこの本全体からにじみ出てくるようだった。
本書は出版前から話題を呼んでいて、書籍の公式ページには男女問わず書店員から絶賛の声が集まっている。男性がこの本を読んだらどのように感じるのか気になっていたので、その意見が読めたのはとても良かった。
本のタイトル、彼女の生き方、普通とは何か…。確かに、どこを切っても、応援したくなる本だ。
私たちはいつでも何かに悩み、上手くいかないこともたくさんある。でも、そうした苦悩と向き合い、もがき苦しんで、受け入れていくことで答えが見つかる。
こだまさんにとって、ちんぽが入ることだけが答えではなかったように、私たちも当たり前や常識にとらわれて固執することが必ずしも答えにはならない。
何か一人で抱えていることがあるのなら、ぜひ手に取ってみてほしい。最後の2行にたどり着いたとき、さわやかな気持ちで心が満たされるはずだ。
(新刊JP編集部)
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