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売れっ子作家は実際どれくらい儲かるのか

 第153回芥川賞を受賞し話題となった『火花』(又吉直樹/著、文藝春秋/刊)。同作品の累計発行部数はすでに240万部を突破しているが、もし仮に印税が10%だとすると、およそ2億8000万円にのぼることになる。
 又吉さんの場合、異例の大ヒットではあるが、他の作家の場合はどうなのだろう。
 『作家の収支』(森博嗣/著、幻冬舎/刊)は、そのタイトル通り、ひとりの人気作家がその収支状態を包み隠さずに語った一冊。本書によれば、森さんは19年間の作家活動を通じて、なんと15億円の収入を得たそうだ。
 ここではもう少し具体的に、いくつかのエピソードをご紹介しよう。

■『すべてがFになる』は時給100万円
 本書によれば、森さんが最も多くの印税を稼いだ作品は『すべてがFになる』(講談社/刊)。森さんのデビュー作にして、ノベルス版(いわゆる新書サイズの本のこと)が累計13万9600部、文庫版が累計63万部というヒット作だ。
 では、このヒットにより、森さんにはどれほど儲かったのか。この作品の印税は10%(ただし、刊行したのが単行本なのか文庫なのかなどによって、印税は変動する)だったため、ノベルス版で約1400万円、文庫版で約4700万円の収入を得たそうだ。
 またさらに興味深いのは、森さんはこの作品に要した作業時間を詳細に明らかにしている点。「この作品の文字数は18万文字くらい。ゲラ校正などを含むと、60時間ほどが制作時間になった」といっており、総収入から逆算すれば「時給は100万円」になるそうだ。とんでもない額である。

■額としてはばかにならない雑収入
 作家にとっての収入は印税だけではない。他にも様々な「雑収入」がある。
 『すべてがFになる』は2014年にドラマ化がなされているが、小説作品がドラマになった場合、著者のもとには著作権使用料という形でお金が入る。ちなみに、1時間の放映に対して50万円が相場。したがって、連続ドラマであれば結構な額になる。
 またさらに、映像作品がDVD化されたり、関連グッズが販売されたりすれば、それに対しても印税が発生する。つまり、ある作品がヒットすればするほど、「雑収入」は雪だるま式に増えていくのだ。

■映画が話題になることで原作が売れる
 森作品のなかには、『すべてがFになる』以外にも、映像化されたものがある。『スカイ・クロラ』だ。この作品の売れ方が興味深い。本人いわく、この作品の原作は発売当初あまり評価されていなかった。しかし、アニメ化されたことで光が当たり、発行部数を大きく伸ばしたのだ。
 本書では、映画の告知がなされた前と後での発行部数が比較されている。それによれば、告知される前の6年間が13万4000部だったのに対して、告知後の8年間での部数は22万部に達している(ともに、単行本、ノベルス版、文庫を合わせた累計発行部数)。つまり、映画化による著作権使用料だけでなく、本そのものがさらに売れて印税が入ってくるケースもあるわけだ。
 しかも、話はこれで終わりではない。映画のヒットにより、「『スカイ・クロラ』の絵が入ったパチンコ台を作りたい」というオファーまで舞い込んだのである。相手が提示した著作権使用料は500万円。森さんはこの話を受けるつもりだったが、結局は実現しなかったという。

 ちなみに森博嗣さんがデビューしたのは1996年。彼が精力的に作家活動を展開していたとき、出版界は今ほど厳しい状況にはなかった。その意味で、ここに示されている話は、あくまで「これまで」の作家生活として受け取ったほうがいいかもしれない。
 ただ、「ヒット作によって、作家はどれくらい儲かるのか」という疑問には十分こたえてくれる一冊であることは間違いない。
(新刊JP編集部)

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『作家の収支』(幻冬舎刊)

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