「この人、信用していいのかな?」「このお店、テレビで取り上げられていたけど、ほんとうに美味しいんだろうか?」などなど、人にしろモノにしろあとで後悔しないためにも、「本物を見分ける眼力」を持ちたいものですよね。
こういう力は一朝一夕に身につくものではないにしろ、「モノを見て選ぶことのプロ」の意見は知りたいところ。『欲望するインタビュー』(原田優輝/編著、Pヴァイン/刊)には、「古道具坂田」の店主として約40年にもわたって古道具の目利きをしてきた坂田和實さんのインタビューが掲載され、そこからは古道具に限らずもっと普遍的な「物事を見る目の養い方」についてのヒントを得ることができます。
■判断力は「既存の価値観」に流される
この坂田さん、目利きとしてのキャリアが長いだけでなく、ヨーロッパ、アフリカ、南米など世界各地を見て歩き、現地で仕入れた日曜工芸品や美術品を取り扱ってきたという人物で、その選択眼の確かさは審美家として知られる白洲正子も一目置いたほど。
しかし、そんなプロフェッショナルであっても、キャリアのスタートは拾ってきた木製の折りたたみ椅子を200円で売ることだったそうです。その後、200万円近いアンティーク椅子を売った時期もあったそうですが、現在は「高価で貴重なモノ」ではなく、古物ではあっても普通の用途のために作られた普通のモノを扱っているといいます。
この変化は紆余曲折を経て「原点回帰」した証ともいえます。そこには、彼がたどり着いた、歴史的価値や技術的な完成度に頼らずに「自分が好きなものを選ぶ」というシンプルな結論がありました。
一見、平凡な言葉のようにも思えますが、私たちは知らず知らずのうちに「肩書き」や「市場価値」といったものに判断をゆだねてしまいます。
「最初に見た時に素直に良いと思えなかったにもかかわらず、自分の知識をフル回転させて、市場価値を考えた上で買う時というのは、不思議と偽物をつかんでいる場合が多いです」(P76より引用)
とする坂田さんの言葉は、そういった既存の価値観をいったん取り払い、自分の判断に責任を持つ姿勢を持つことの大切さに触れています。
また、坂田さんは、こんなことも語っています。
「反対に偽物をまったくつかんでいないコレクションというのは、見ていてもあまり面白くないんです。面白いことをしている人は、ある程度いろんなことに対して色気を持っているからこそ、ダマされるんですよね」(P76より引用)
「本物を見抜いてやろう」と肩肘張るのではなく、まずは気楽な気持ちでどんどん選んでみることが大切。もしダマされたとしても、それはそれで人生の味わいになる。
坂田さんの言葉には、そんなメッセージが垣間見えます。
ここで紹介した坂田さんの言葉は、美術家・毛利悠子さんのインタビューによって引き出されたもの。本書では他にも、「クリエイティブ・ディレクター×元プロ陸上選手」「クロスステッチ・デザイナー×書店店主」など、異色の組み合わせによるインタビューが15本収録されています。
文筆ではなくインタビューだから出てきた言葉の数々からは、心に直接響くものが多く見つかるはずです。
(新刊JP編集部)
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