岩谷圭介さん、1986年生まれの29歳。
岩谷さんは北海道大学在学中に“個人レベルの投資”と身の回りの素材だけで「ふうせん宇宙撮影」という壮大な“宇宙開発”をはじめます。そして、2012年には日本で初めて小型風船カメラを使い、上空3万メートルからの撮影に成功。
彼の撮影した写真は、CMや広告にも起用されるなど、大きな注目を集めています。
このほど出版された『宇宙を撮りたい、風船で。』(キノブックス/刊)はそんな岩谷さんの想いが詰まった一冊。彼が今までやってきた「挑戦」と、諦めないで一歩を前に出すことの大切さが書かれています。今回はそんな岩谷さんに、本書についてお話をうかがいました。その前編です。
(新刊JP編集部)
■「宇宙開発」は100円からできるって本当?
――岩谷さんが取り組まれている「ふうせん宇宙撮影」は、風船を使ってカメラを上空に飛ばし、宇宙から地球を撮影するという極めてユニークなものです。公共広告機構(AC)のCMにも岩谷さんの写真が使われたそうですが、大きなムーブメントになっている実感はありますか?
岩谷:僕はテレビをほとんど見ないので(苦笑)CMは2013年から1年間、流れたのですが、実は泊まったホテルで一度きりしか見たことがありません。
――たくさんの方が、岩谷さんが撮影された写真を見ましたよ。
岩谷:よく「この写真、誰が撮影したか分からない」と言われることがあります。ただ、僕自身はそれでいいと思っていて、想いの部分が伝わることが重要だと考えています。
――初めて風船で宇宙を撮影できたときは感動したのではないですか?
岩谷:うーん、一番初めは悔しかったという印象ですね。
――そうなんですか!? 悔しかったという言葉は意外です。
岩谷:11号機で初めて撮影ができたのですが、1万6000枚くらい撮影をして、何枚見てもいい写真がなくて、自分は何も分かっていないことを痛感させられていました。機体がぐるぐる回転していたから写真もぐちゃぐちゃだし、(カメラが空へ)上がっていく段階で結露してしまい、水滴だらけになっていたり…。それでやっと最後の方に1枚だけキレイに撮れているものがあったんです。でもそれは偶然の産物で、運が良かっただけなんです。
――もっと精度を高めないといけない、と。
岩谷:自分の実力ではなく、運で撮れた1枚でした。悔しかったです。
――本書では諦めないことの大切さ、やってみることの重要性を強く訴えていらっしゃいますが、実際にやってみて失敗し、すぐに諦めてしまう人も多いです。やり続けるためのモチベーションを維持するにはどうすればいいのでしょうか。
岩谷:それは特別なものはないと思いますし、複雑なものでもないと思います。ただ、失敗したときに「どうして失敗したのか」を考えたり、「失敗の中に良かったところはないか」を探してみたりするといいと思います。こっちの方からかも、と修正していきながら成功に近づくのが正しい作業ではないでしょうか。
――「ふうせん宇宙撮影」の機材も、自分で製作されていらっしゃったんですよね。
岩谷:全てではないですが、最初の頃はいろいろな実験道具を自分で作っていました。真空の実験をしないといけないときに、学生だったので機材が買えなかったんですね。高いとはいっても15万円くらいなのですが、当時はお金がなかったので。それで100円ショップに行って、ジャム瓶と貼りつける吸盤、あとはストローや注射器などを購入して、全て足して1000円いかないくらいで実験装置を作りました。
――本にも10万円する釣り具のリールを100円で作ったというエピソードが明かされています。
岩谷:でも、安いものは安いですからね。100円のリールは結構重たくて、結局4回ほど使って壊れてしまいました。だからなるべくいいものを使うことは大事です。でも、最初にまずやってみるときに、初めての実験でいきなりウン万円使って失敗するのは避けたいですよね。だから僕はまず、自分で組み立ててみるようにしています。
――最初は自分の手で始めたとなると、失敗も数多いのではないですか?
岩谷:そうですね。最初は下手な鉄砲も数を撃てば当たるというか(笑)。予算がないので、そういったところから始めるしかないですし、実際にそれが(成功するための)一番の近道かもしれません。
――出版されてからの反応はいかがですか?
岩谷:いじりが入っていると思いますが、僕は理系の人間なので、知人からは「文章上手いね」と言われることが多いですね(笑)。また、高校生や中学生に読ませたい、勧めてあげたいという声もいただいて嬉しいですね。
――インターネット上では6章に書かれている風船での宇宙撮影の小ネタがおもしろいという声もありました。
岩谷:ありましたね(笑)。それに、技術的な内容にも触れてほしいというご意見もいただきましたが、あえてその部分は本筋から抜いています。僕が伝えたいことは、やってみることの大切さや気持ちで、困難を乗り越えていくことであり、それが最も自分が学んだことなので。
技術的なことは、5年後、10年後には新しいものに変わっていますが、そういった気持ちは変わりません。僕自身、高校生や大学生の頃に将来について迷いましたし、僕と同じように、悩んだり考えたりしている人も多いと思います。そういった朽ちない内容を書きたいと思っていました。
――挑戦することの大切さが伝わってくる内容でした。
岩谷:何かをやりたいと思っている人の背中を押してあげられる本にしたかったですし、大変おこがましいのですが、挑戦する仲間を増やしたいという気持ちもありました。そういった人が増えれば世の中が明るくなるのかなと。
――岩谷さんのウェブページ「風船宇宙撮影 Fusen Ucyu Project」では、技術や写真をフリーで公開されていますよね。
岩谷:商用での使用はブロックしているのですが、学校教育や個人での使用はフリーにしています。技術については、今まで何百回、何千回とやってきた失敗や経験をデータとしてアップしているので、ぜひ活用してほしいですね。…と言いつつ、まだ公開できていないデータもあるのですが(苦笑)
――そのように自分の作品や技術をフリーで公開してしまうのは珍しいことだと思います。
岩谷:特に技術面はすぐに新しくなる時代なので、技術の変遷というか、そう言った部分もどんどん出していって、いろんな人に活用していただければという想いがあって公開しています。
この本を読んでいただいて、「自分もやってみよう」と思ったら、技術面のデータはウェブサイトにアップしているので、ぜひチャレンジしてみてほしいですね。
――岩谷さんにとって「発明」は極めて重要なテーマではないかと思います。今では「発明家」という肩書きを使っていらっしゃいますが、もともと子どもの頃から「発明」が好きだったのですか。
岩谷:そうですね、昔からちょっと工夫をしてみることが好きで、発明のコンテストに作品を出してみたこともありました。今でも、子育てをしているのですが、子どもが生まれてからベビーグッズを作ったりしています(笑)
僕はエンジニアなんですが、今のベビーグッズは全てがダメとは言いませんが、あまり人間工学に基づいていないというか、理に適っていないものが多いように思うんですね。デザイン的にはすごく良いのですが、赤ちゃんの体の構造に合っていないものもあって、結局自分で作り直してしまうことがあります。
――根っからのエンジニアなんですね。
岩谷:基本的にはエンジニアの視点ですね。社会全体が何でも売っているということに流されているのではないかと感じます。世の中はモノで溢れていて、それは確かに便利な時代なのかもしれないけれど、本当にかゆいところに手が届くものはなかなかなかったりしますからね。
(後編へ続く)
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