「自由が極端に制限され、財産を持つことは許されない」
「食事は質素で、麦の多く混じった"くさい飯"に耐えなければならない」
「態度が悪かったりトラブルを起こすと懲罰房に入れられる」
刑務所暮らしに対する世間一般のイメージはこうしたものだろう。刑事犯罪への罰として、快適とは程遠い、味気なく過酷な環境で課された年月を過ごさなければならない。これが日本における懲役刑である。当然、生活の質は「シャバ」よりも大きく劣る。
だが、受刑者とて人間である。ひたすら刑期が過ぎるのを待つ人がいる一方で、手に入るもので何とか工夫をして、服役生活に彩りを加えようとする人もいる。
■もはや執念!整髪料とお茶で酒を作る受刑者たち
シャバでは好きなだけ楽しめた酒やタバコといった嗜好品は、刑務所ではもちろん禁止。お菓子なども休日に少し出るだけである。
しかし、禁止されれば余計に恋しくなるのが人というもの。自らも服役経験を持つ作家・影野臣直氏によると、刑務所内で手に入るものを使って嗜好品を作ってしまう人がいるという。
刑務所には、刑務作業で得られるわずかな賃金で生活必需品や消耗品を自費で購入できる制度がある。購入可能な物品は刑務所によって異なるが、滋賀刑務所では某有名メーカーの整髪料を購入することができた。
熱いお茶にこの整髪料を入れると、整髪料の成分が「麹」となって酒の味がする飲み物(?)のできあがり。口当たりがよく飲みすぎると酔っぱらってしまうほどの味わいだとか。この他にも、リンゴジュースを食事で出されるパンのイースト菌で発酵させて酒にする方法もあるようだ。
■「三省堂の辞書で巻いたタバコが一番うまい」
次はタバコだが、こちらは酒ほど難しくない。バナナやグレープフルーツの皮の繊維質の部分(白い部分)を干し、完全に乾燥したら細かく砕いて紙で巻くのだという。紙には特に条件はないが「三省堂の辞書で巻いたタバコが一番うまい」という噂なのだとか。
ところで、せっかくのタバコも火がなければ吸うことはできない。どうやって自作のタバコに火をつけるのだろうか。
影野氏によると、かつては舎房の蛍光灯の電極部に針金を差し込んでショートさせ、出た火花で火をつける方法があったそうだが、今はこの方法はできないように加工されているという。しかし、手近なもので火を起こすことは案外難しくない。
老眼鏡や近視用メガネのレンズに水を一滴垂らし、太陽の光を集める方法や、舎房の竹ボウキの切れ端を布団から抜き取った綿で巻き、洗面場のコンクリ面で将棋盤や箸箱などを使って転がし摩擦熱を発生させる方法などがあるという。
不自由な毎日をいかに乗り切るか。これらは受刑者の欲求と創意工夫の末に編み出された「懲役の知恵」なのだ。
◇
あまり関わり合いになりたくはないが、決して私たちすべてと無関係ではない「刑務所」。
影野氏の著書『サラリーマン、刑務所に行く!』(三栄書房刊)には、まずい食事を少しでもおいしくしたり、少しでもオシャレを楽しもうと工夫を重ねる刑務所暮らしの受刑者たちの姿が描かれている。その姿は、ニュースやドラマ、映画からは決して伺い知ることができないもの。手にすれば新鮮な驚きが待っているはずだ。
(新刊JP編集部)
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