「自分を変える」というのは永遠のテーマだ。ところが、とある研究では、変わる必要性を認識していても、現実には85%の人が行動すら起こさないという。そして、その原因は決して「意志の力」ではない、というのだ。
ハーバードで生まれた一つの変革理論が注目を集めている。成人の発達と学習を30年以上にわたって研究を続けてきたロバート・キーガン氏とリサ・ラスコウ・レイヒー氏は、変革を妨げる原因を突き止め、解消するツール「免疫マップ」を開発した。その知見をまとめたのが『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流自己変革の理論と実践』(池村千秋/訳、英治出版/刊)だ。
ここでは、多くの人に身近な「ダイエット」を例に、「免疫マップ」がもたらす驚きの効果をご紹介しよう。
■「変われない」のは「自分を守りたい」から
ダイエットをしたいAさん、Bさんという女性がいて、2人とも「体重を減らしたい」という“目標”がある。
「免疫マップ」ではまず、その”目標”を妨げている“行動”を挙げる。2人とも「お腹がすいていないのに食べてしまう」「炭水化物をとりすぎる」などを挙げている。普通ならここで「お腹がすいてなければ食べなければいい」「炭水化物を減らせばいい」と思うだろう。
しかし「免疫マップ」は別のアプローチをとる。その行動をとってしまう“理由”を探ろうというのだ(本書では“裏の目標”と定義されている)。すると、それぞれ異なる理由が浮かび上がってきた。
Aさんの理由は、「親しい人たちとの絆を大切にしたい」「まわりの愛情のしるしは、しっかり受け止めたい」だ。ここには、いつも大家族で食事をしているというAさんならではの、親戚のおばさんからたくさん食べるようにすすめられるのを断って関係を崩したくないという強い思いがあるという。
一方でBさんは、「性的な対象として見られたくない」ことを理由として挙げた。この背景には、これまで減量に成功するたびに、自分のことを性的な関心の対象としか見ない男達から言い寄られた辛い経験があるという。
つまり、2人ともダイエットに成功しないのは、決して「意志が弱い」からではない。2人とも「今の自分を守る」という強い力が働いているのだ。まずはその強い力をしっかりと認識することこそが、自己変革の第一歩だという。
人間の体にはウイルスなどの外敵から身を守る免疫機能があるが、過剰反応をおこすとアレルギーとなるように、「変化」にも心理的な防御機能が働いていることがあり、それを明らかにするのが「免疫マップ」の真髄だ。
本書はこのように、免疫マップを用いて様々な人や組織を事例として挙げながら、私たちが本質的な行動変容を起こすためのヒントを与えてくれている。
■人間の脳は何歳になっても成長できる
また、本書は「大人になると脳の成長は止まる」という古い常識が誤りだったという科学的理解を出発点としている。人は何歳になっても知性のレベルを高め、成長し続けることが可能なのだ。これは「どうせ人は大して変われない」と心のどこかで思ってしまいがちな私たちにとって、明るい示唆のように思える。
本書にはダイエットの例だけでなく、権限委譲ができないチームリーダーや、感情をコントロールしたいキャリアウーマン、そして大企業の取締役会からプロジェクトチームまで、著者たちが関わった多岐にわたる事例が紹介され、実際に行動に移すためのプロセスも示されている。
「今度こそ自分を変えたい」と思う人はぜひ試してみてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)
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