出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第59回となる今回は、『村上海賊の娘』(新潮社/刊)が2014年本屋大賞に選ばれた和田竜さんです。
戦国時代の瀬戸内海で活動していた海賊・村上水軍と織田信長の軍勢の戦を描いたこの作品は、これまでの歴史小説にはない圧倒的スケールと臨場感で、読者を魅了し続けています。
今回は、話題を呼んだ圧巻の戦闘シーンや、主人公・村上景のキャラクターについて、一度シナリオを書いてから小説に直すというちょっと変わった執筆スタイルについてなど、和田さんにたっぷりと語っていただきました。
■主人公の村上景のモチーフは「社会人になったばかりの女の子」
―村上景についてはかなり妄想を膨らませて書かれたそうですね。
和田:容姿や人となりについてはほとんど僕の想像です。というのも景に限ってはどんな人物だったのかわからないんですよ。
ただ、作中では景を当時の平均的な日本人とはかけ離れたバタ臭い顔として書いているのですが、瀬戸内のあたりにはそういう顔の人が結構いたという話は聞きます。
―その景ですが、戦に対して幼い憧れを持ったまま瀬戸内を飛び出したものの、大坂で戦のシビアな現実を知って打ちのめされます。そこから少しずつ成長していくわけですが、「挫折からの再起」というのもテーマとしてあったのでしょうか。
和田:それはありました。というのも、景については大学を卒業して社会人になったばかりの女の子がモチーフになっているんです。
会社の先輩から仕事でやりこめられたり怒られたりして、家に帰って一人で泣いている。それでもがんばって働こうと思った時に、何を目標にするのか。出世をしようということを第一に考えるのではなく、自分の仕事がいかに他人の役にたっているのかということを起点におけばもっと元気が出るんじゃないか、というのはテーマの一つですね。
―また、合戦シーンはこの作品の大きな見どころです。作品冒頭の地図と見比べて読んでいると、戦がどう動いているのかがはっきりわかって新鮮でしたし、何より臨場感がありました。戦いの潮目はこうやって変わるのかと。
和田:それはうれしいですね。本に地図をつけるかどうかで議論になったんですけど、物語の中で瀬戸内海を行ったり来たりしますし、出来事とそれが起きた場所がかなり細かく書かれているので、やはり地図はあった方がいいだろうということで、小説に出てくる地名は地図に全部載せました。役立ってよかったです。
これまでの歴史小説って、合戦にいたるまでのプロセスは重視しても、合戦自体にはあまり重きを置いていないものが多いんですよ。そういう小説だと、戦のシーンはだいたい俯瞰で描かれて、戦略や経過は地図上で説明されていくだけなのですが、僕はそれだけではなく、戦を各登場人物の視点で書いて、しかもそれを頻繁に切り替えるということをしています。それが臨場感につながっているのかもしれません。
第三回 「絵空事でなく、現実に存在した人間が動くのが歴史小説の魅力」につづく
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