出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第59回となる今回は、『村上海賊の娘』(新潮社/刊)が2014年本屋大賞に選ばれた和田竜さんです。
戦国時代の瀬戸内海で活動していた海賊・村上水軍と織田信長の軍勢の戦を描いたこの作品は、これまでの歴史小説にはない圧倒的スケールと臨場感で、読者を魅了し続けています。
今回は、話題を呼んだ圧巻の戦闘シーンや、主人公・村上景のキャラクターについて、一度シナリオを書いてから小説に直すというちょっと変わった執筆スタイルについてなど、和田さんにたっぷりと語っていただきました。
■「読者に喜ばれる本を書いたんだと認定してもらえたような気がする」
―本屋大賞受賞おめでとうございます。少し時間が経ってしまいましたが、受賞の感想からお聞かせ願えますか。
和田:いまだにこうやって取材していただけるんですからうれしい限りですよね。
最も読者に近いところにいる書店員さんたちに選ばれたということで、自分は読者に喜ばれる本を書いたんだと認定してもらえたような気がしています。
―受賞作となった『村上海賊の娘』ですが、瀬戸内の海賊、村上水軍が織田信長の軍勢と戦った「木津川口の戦い」を題材にしています。この戦いに注目した理由は何だったのでしょうか。
和田:僕は生後3ヶ月から中学2年生まで広島に住んでいたのですが、両親に連れられて瀬戸内海の因島に行ったことがあって、その時に昔ここには海賊がいたということを教えられました。その海賊というのが村上水軍で、子ども心に悪そうで強そうで、でも自由な雰囲気があってかっこよかった。そういう子どもっぽい理由で村上水軍を好きになったんです。
大人になってひょんなことから歴史小説を書くようになったのですが、いずれは村上水軍について書きたい気持ちはずっとありました。特に織田信長の水軍と大阪湾で戦って勝利した「木津川口の戦い」は、村上水軍が一番輝いていた時だと思っているので題材にしようと思いました。
―主人公の村上景しかり、景の父である村上武吉しかり、登場人物が非常に魅力的です。同時代に生きていない人物を生き生きと書くために気をつけていることはありますか?
和田:これは当たり前のことですが、まずは史料を徹底的に読むこと。そこからその人物の性格やキャラクターを考えていきます。
そのうえで気をつけているのは、史料やそこに出てくる人物を現代風に解釈しないことですね。その時代の空気というものがありますし、その空気はその時代に生きる人の考え方に大きく影響します。
例えば、命についての考え方は、今と戦国時代ではかなり違います。
今でこそ「人の命は大切なもの」とか「だから戦争はやってはいけません」という考えが定着していますが、当時戦は日常的なもので、人々は今の人よりもずっと暴力的なことに慣れていましたから、そういう考えはあまりなかったはずです。この感覚をもって人物を解釈しないと時代の空気が見えてこない。そこはいつも気をつけています。
―しかし、戦に出れば当然命を落とす可能性もあるわけです。そういった恐怖を当時の人はどう捉えていたのでしょうか。
和田:史料によってはそういった恐怖心について書かれているものもあるのですが、読んだ印象として言えるのは、恐怖に対して鈍感だったということです。それはもう当時の空気というしかないもので、そういう時代だったということだと思います。
そういう、現代人と古い時代の人の考え方の違いが僕にとっての歴史小説の面白さで、作品の中で表現しようと思っていたことです。
―作中にも「――進者往生極楽/――退者無間地獄」という旗を見た一向宗たちが奮い立つ場面がありました。たしかにこういった感覚は現代の日本人にはないものです。
和田:そうですね。宗教の信者で農民というとか弱いイメージがあるかもしれませんが、当時の一向宗は勇敢で、一時は信長の軍勢を圧倒するほどの力があったんです。そういうところからも、この時代の人は武士ではなくてもある種の乱暴さがあったんだろうと思いますね。
実際に、信長は一向宗に弟や重臣を殺されていますから、彼は彼で相当頭にきていたはずです。信長が信心深い宗教信者を一方的に弾圧していじめていたように思われがちですが、そういうわけではないんですよ。
第二回 主人公の村上景のモチーフは「社会人になったばかりの女の子」につづく
関連記事
・
小説・音楽・翻訳 マルチな才能を持つ作家・西崎憲の素顔(1)・
古川日出男、大長編『南無ロックンロール二十一部経』を語る(1)・
作家デビュー15周年 古川日出男の朗読ライブに密着!・
これは詩か小説か?文学の「領土」を拓き続ける作家・諏訪哲史さんインタビュー(1)夏休みの読書に最適?『村上海賊の娘』誕生秘話(1)