深い感動を与えてくれる作品に、何度出会ったことがあるでしょうか。
TVや映画、ロマンス小説で量産される「感動」や「涙」もいいけれど、心の中にずっと残る感動は、短くシンプルな物語の中にあるのかもしれません。
『心に響く小さな5つの物語』(藤尾秀昭/文、片岡鶴太郎/画、致知出版社/刊)は、雑誌『致知』に掲載された物語の中から珠玉の作品5つを選んで構成された物語集です。
5編の物語はそれぞれ15ペ―ジほどで、本書を読了するのに15分もかからないでしょう。
しかし、本書が市川海老蔵さんや片岡鶴太郎さんなど数々の著名人に絶賛され、続編も刊行されるほどに本書が注目を集めたのは、その短い文章の中に、人々の心を捉えて離さない感動が込められているからです。
5編の物語は、野球のイチロー選手や、作家・西村滋さん、農家の父と娘、小学生と教師など、それぞれ異なる登場人物たちの織りなすエピソードによって構成されています。
それぞれの物語には複数の詩が挿入されており、語り自体も短い文章で構成されているので、美しい詩集を読んでいるような気分になります。
たとえば、第四話「人生のテーマ」には、ある少年が書いたこんな詩が掲載されています。
ごめんなさいね おかあさん
ごめんなさいね おかあさん
ぼくが生まれて ごめんなさい
ぼくを背負う かあさんの
細いうなじに ぼくはいう
ぼくさえ 生まれなかったら
かあさんの しらがもなかったろうね
…(一部抜粋)
これは、15歳で亡くなった重度脳性マヒの少年「やっちゃん」が、全生涯の中でたった一篇だけ書き残した詩です。
やっちゃんは、生まれた時から全身が不自由で、話すこともできませんでした。だから彼は、養護学校の先生であった向野幾世さんの力を借りて、この詩を紡ぎ出しました。自分のために疲弊する母を思いやり、謝するこの詩が完成したわずか二か月後に、少年は亡くなりました。
少年が命を懸けて絞り出した言葉の数々を、著者は「忘れられない詩だ」と述べます。
人は皆、1つの天真を持って生まれてきます。その1つの天真を深く掘り下げ、仕上げていくことが各人が果たすべき人生のテーマであり、やっちゃんは、彼の天真を持って人生を耐え抜いたのでしょう。
この他にも、本書に収められているのは、人間の強さや優しさを感じさせてくれる物語ばかり。片岡鶴太郎さんによる墨彩画の挿絵も美しく、子どもから大人までが味わえる絵本とも言えるでしょう。
あなたは、この本を読んで何を感じますか?
(新刊JP編集部)
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