「日本のビジネスマンの多くは、いくらエリートと言われていても、世界に出て行っても大きな活躍をすることができない」。この主張に対して、あなたはどう思うでしょうか。語学も論理的な思考法も身に付けたエリートビジネスマンならば太刀打ちできるはず! と思う人もいるはずです。
しかし、海外で長く活躍してきたベテランビジネスマンに言わせれば「まだフツーレベルですら追いついていない人が多い」レベルなのだとか。『そろそろ、世界のフツーをはじめませんか』(今北純一、船川淳志/著、日本経済新聞社/刊)では、海外のビジネスシーンで活躍する二人の著者が、「世界のフツーができない日本人」をテーマに、世界で活躍できる人材について語り合っています。
今回、新刊JP編集部は今北氏と船川氏、2人の著者にインタビューを敢行。海外でビジネスをするために本当に必要な力について話を聞きました。英語は必要だけど、もっと大事なものがある。それは一体なんなのでしょうか...?(以下、敬称略)
(新刊JP編集部)
■英語は必要だがもっと大事なものがある
―本書では、日本人のエリートでもいまだに「世界のフツー」に届いていないことに警鐘を鳴らし、その上で何をすべきかがお二人の対談によって語られています。一点、思うのは日本の文化として、「世界のフツー」とは真逆のことが根付いて取れていないように思うのですね。例えば自分の言っていることが皆と同じかどうかで正解を判断する、と。
今北「そういう側面はありますよね。皆と同じならば正解で、それを気にしちゃっている。これはほとんど習性じゃないかと思います。ヨーロッパはその反対で、自分が合っているかどうかは気にしないんです。まずは自分の言いたいことを言い続ける。僕はこの本の中で『知的ボクシング』って書きましたが、負け続けると相手にされなくなっちゃうんですよ。この人は何も言わないのかって。自分の意見やファッション、信条のようなその人特有のものを発信できないと、最後は無視されてしまうんです」
船川「海外のビジネススクールで、教授がハイスピードでディスカッションをすすめているときに、たまたま自分が考えるていことと同じ発言を直前に言われてしまうことがあるわけですよ。そんな時、日本人は『同じ意見でした』って言っちゃうわけですよ。でも、欧米の生徒だけじゃなくて、『世界のフツー』の生徒たちは、意地でも何か違うことを言ってやろうとするわけです。まさに人と同じ意見では、付加価値がないとみなされてしまいます」
―それは、日本とはまさに対極ですよね。
今北「そうですよね。だから、日本の『空気を読む』っていう文化は変な言葉ですよ。気を使いながら、当たり障りなく済ませようとするでしょう。
私がルノー公団(自動車メーカーのルノー)に勤務していた頃、10万人のフランス人職員の中に、一人だけ日本人がいるんです。これだけでもある意味事件だけれど(笑)会議で知的ボクシングが行われるんです。で、ああでもないこうでもないとみんな同時に仕掛けるんですが、最後に勝つのは言葉にパワーがある人。日本はそうじゃなくて、こう話がありましたよね、とか新聞に載っていました、とか海外だとこんな事例が...みたいな感じで、主人公がいないんです。それらの意見から落とし所を探して、コンセンサスを取るんだけれど、向こう(フランス)とは正反対でしたね」
―するとフランスの方では、まるで喧嘩のような感じで会議が行われているんですか?
今北「本当の対話というのは、自分の譲れないものをしっかりと言うことからはじまります。日本でそれをしてしまうと、個人攻撃をされたような感じになってしまいますし、そもそも『言わなくても分かるでしょ』みたいなカルチャーがありますね。でも、本当はそんなの分かるはずないんですよ。日本だと阿吽の呼吸とか言ったりしますけれど、日本の外に一歩でも出たら通用しないと言いたい。本当に守るべきもの、譲れないもの、自分の強み、自分らしさをそのまま出せばいいんです。
あと、英語やフランス語が流暢に話せないから伝わらないかというと、流暢さは全く関係ないです。もちろん流暢な方がいいことは確かですが」
―そういえば、最近では、英語を公用語化する企業が増えてきました。
今北「もう、英語、英語、英語ですよ。英語やっておけばいい、それで英語公用語化みたいな施策がパッと出てしまうんです。さらにそれがグローバルだともてはやされる。だけれど、中身が国際人として成熟しないと、渡り合っていけませんよ」
船川「この本のサブタイトルも、最初に『英語以外で大事なものは何か』というのが候補に上がっていたんです。日本では、わかりやすいけれど本質的ではないものに、あまりにも飛びつきやすいのではないのですか。TOEIC何点以上だと昇進する、というような話です」
―なるほど。
船川「日本人の誇りを持つことと、他国に対する尊敬の念は両立するし、そうでないとまさに成熟した国際人にはなれない。読んでいただくと、そのメッセージが分かると思います」
今北「英語が大事ではないとは言っていません。ただ、英語が学問化しているというか、伝えるためのツールなのに身に付けるためのツールになっているんです。言葉は自分の想いや信念、思想を伝えるための媒体ですから。TOEICブームも点数偏重の延長線上にあると思いますね」
―実際、英語をいくら身につけても中身がなければ意味がないですよね。
今北「まさしくその通りなんですが、それが分からなくなってきているんじゃないでしょうか。また、もう一つ問題だと感じているのは。グローバルで活躍できる人材の育成が急務だからといって、若手をインドに3年間送る、と。そんなの冗談じゃないですよ。根拠もなしに送るんです。これはおかしい」
船川「ところが、それを誰もおかしいと思わないんです。海外に行かせればいいと思っている。そういったことに警鐘を鳴らすためにこの本を書いたんですよ」
―日本は幸福度や意識などの部分で先進諸国との差が広がっているように思います。それは何故なのでしょうか。
今北「おそらく目標を失ってしまったからだと思います。新興国はベンチマークする相手がいて、昔の日本はそれがアメリカだったのですが、アメリカに追いついてショックが起きてしまったんです。
ただ、リーマンショックが起きたとき、マスコミに出てくるエセ評論家やエセ専門家がアメリカはもう終わりだと煽ったんですけど、冗談じゃないですよ。アメリカのすごいところはたくさんあります。日本人はイエスかノーでしか考えられない。TPP参加交渉もそうです。あなたは賛成?反対?なんてテレビでやっているけれど、知的ボクシングにしては幼稚です。落とし所を議論するディベートができていないんですよ。
アメリカの場合は歴史がなく、特殊な成り立ち方をしています。だから、ヨーロッパとは違う政治や経済がありますよね。また、常に新しいことを仕掛けていくというところがアメリカらしさだと言えます。だから、常にブレイクルーを仕掛けて、現実化していくのですが、そうなるとベンチャーも育ちますし、起業家も次々と出てくる土壌ができるんです」
―では、ヨーロッパはいかがですか?
今北「ヨーロッパは知恵ばかり出して、実行が伴わない(笑)それから、チームワークが下手ですね。誰かが素晴らしい発言をしても、あえて逆のポジションを取ったりしますから。でも、そうしないと自分の存在感が消えていってしまいます。それが知的ボクシングです」
船川「ただ、読者の皆さんに勘違いしないで欲しいのは、逆のことを言えばいいのではないということです。自分にとって大切なことを言うことが大事です。反対しているだけだとそれも消えちゃうから」
今北「私たちの焦燥感が高まっているのは、35年間続いた日本の右肩上がりが終わって、地政学的に見ても、多元主義でやっていくしかないからです。個が独立しない限り、成熟できないと思います。
35年の右肩上がりの成功体験の経験者が、漬物石のようになっていますよね。永田町も一流企業も。そんな状況では個のダイナミズムは生み出せませんよ」
船川「私は以前から、『東京駅半径5キロ、霞が関半径3キロの組織は要注意!』と言ってきました。まさにオールドパラダイムの成功体験から抜け切れていない幹部が多すぎるのです」
(後編に続く)
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