読むべき本、見逃していない?

ロシアがシリアに介入する宗教的理由とは?

リベラルを潰せ

 ウクライナ疑惑で弾劾の可能性も指摘されている米国のトランプ大統領。その前にはロシア疑惑も指摘されていたが、なぜロシアにトランプ支持の勢力があるのか。また、ロシアはなぜシリアに武力介入し、国際的に評判の悪いアサド政権にテコ入れするのか。

 そんな疑問に答えてくれるのが本書『リベラルを潰せ』(新潮新書)である。「世界を覆う保守ネットワーク」という補助線を引けば、国際政治の裏側が見えてくる。

プーチンを支持する米国・福音派

 著者の金子夏樹さんは、1978年生まれ。日本経済新聞社のモスクワ支局に2009年から13年まで在勤。現在は英字誌「Nikkei Asian Review」デスク。

 モスクワ駐在時代のある事件から書き出している。2012年3月の大統領選挙を前に、プーチンへの反対運動が起きた。女性4人のパンクバンドがモスクワ中心部の教会に乱入し、プーチン糾弾の演奏を始めた。2分で追い出された、たわいないパフォーマンスだったが、判決は禁錮2年の実刑判決で厳しかった。「宗教への敵意による乱暴な行為で、社会秩序を乱した」ことが有罪の根拠だった。

 世界の著名アーティストや人権団体が批判する中、プーチンを熱烈に支持したのが、米国のキリスト教右派、福音派だった。彼らは大統領選挙でもトランプ当選の原動力となった。プーチンとトランプを底流で結ぶ、「反リベラル」の動きを世界各地からのリポートで浮き彫りにしている。

勢力広げる世界家族会議

 最初に登場するのが米国・イリノイ州に本拠がある世界家族会議。欧米の人権団体から「憎しみを世界に輸出する団体」と警戒されている。2017年、ハンガリー・ブダペストで開かれた設立20周年の総会を取材した。

 70の国と地域から3000人が参加。欧米を中心に30を超える有力NGOがパートナーとなっている。ハンガリーの首相ビクトル・オルバンが「人口の減少で、我々はみずからの文明を失いつつあります。西欧文明にとって脅威となる(イスラム系)移民を受け入れるのではなく、我々自身がみずからの家族をもう一度強くしなければなりません」と訴え、喝采を浴びた。

 世界家族会議はロシアの社会学者、アナトリー・アントノフが1994年にアメリカの社会学者、アラン・カールソンに送った手紙から生まれたという。二人はモスクワで会い、リベラル主義が社会の混乱やモラルの低下を招いているのを懸念し、キリスト教に根ざす伝統文化を守る意義を認め合った。

 1997年にチェコのプラハで第1回の総会を開いてから、参加者を増やしながら世界各地で総会を開き、当初の研究目的から政治色を強めている。

 中心となって構成するのが福音派だ。聖書に書かれていることは一字一句真実であるという立場をとる。原理主義者とも呼ばれる。進化論の否定、同性愛、同性婚の否定、妊娠中絶の否定などが思想的な特徴だ。

 世界的に広がる同性婚容認の流れに強い危機感をもち、世界家族会議は反撃に打って出た。目をつけたのが世界各国の反リベラル勢力とロシア、ハンガリーなどの強権的な政府だ。

 リベラル勢力を敵とするロシア政府と世界家族会議は「敵の敵は味方」という理屈で、手を結んでいる、と金子さんは見ている。

プーチンがつくった保守的法律

 プーチンの保守反動の価値観を表すものとして、2013年以降の以下の法律を挙げている。

 1 「神への不敬を罰する法」 教会で「ポケモンGO」で遊ぶ様子をネットに公開したブロガーに執行猶予付き禁錮3年半の実刑判決
 2 通称「ゲイ・プロパガンダ法」 公の場でLGBTの権利の主張を制限する法律
 3 国外の同性婚カップルがロシアの子どもを養子として引き取ることを禁じる法律
 4 通称、「平手打ち法」 DVの罰則を軽減する法改正。大けがにならないものを刑事罰から罰金による行政罰に変更

 さて、ロシアはなぜシリアに武力介入するのか。福音派のフランクリン・グラハム(ビリー・グラハムの息子)がモスクワ訪問した直後に、ロシアはシリアで「イスラム国」への空爆に踏み切った。フランクリンは少数派のキリスト教徒を守る手段として評価。ロシア正教会も同様にキリスト教徒保護という立場で空爆を支持している。

 また、ウクライナ介入についても教会の独立をめぐる暗闘があるという。

 ソ連時代には弾圧されてきたロシア正教会だが、いまは1週間にひとつのペースで新しい教会が建てられているそうだ。

 

 トランプ、プーチン、安倍首相の気が合うというのは保守的な支持基盤が一致するせいだろうか。

 ロシアの宗教事情など、日本であまり知られていないことも書かれていて、有益だった。ソ連崩壊後、米国からはプロテスタント教会や新興宗教、日本からもオウム真理教が進出し、それぞれ多くの信者を獲得した。危機感を持ったロシア正教会は政府と提携する道を選んだという。

 しかし、多民族国家のロシア。プーチンはロシア正教を信じるスラブ民族が中心の国家としながら、対立を抑えるため、帝国をまとめるイデオロギーとして、「反リベラリズム=保守反動主義」を採用した、と金子さんは見ている。

 
  • 書名 リベラルを潰せ
  • サブタイトル世界を覆う保守ネットワークの正体
  • 監修・編集・著者名金子夏樹 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2019年1月20日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・250ページ
  • ISBN9784106107979

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