人はなぜ犯罪に興味を持つのだろうか? 小説、テレビ、映画の題材に犯罪はしばしば使われる。現実に起きた世界の歴史に残る101の事件をもとに、オールカラーの写真や図解とともに解説したのが本書『犯罪学大図鑑』(三省堂)だ。
本書は犯罪をいくつかの類型で分類し、それぞれの事件を記述するというスタイルをとっている。したがって「強盗、泥棒、放火魔」の項目では、映画『俺たちに明日はない』のモデルとなったカップルの犯罪者、ボニーとクライドの次のページには、1963年にイギリスで起きた大列車強盗事件のロニー・ビッグズが登場するといった具合。しかも、写真やイラスト、チャートを使い、事件や犯罪者について解説しているから、読んでいて飽きない。図鑑は必要な項目を調べるために見るものだが、本書は「読む図鑑」になっている。
執筆者は英米の作家、ジャーナリスト、犯罪学者ら5人。そのせいか、切り裂きジャック(イギリス、1888年)、リンドバーグ愛児誘拐事件(アメリカ、1932年)などどうしても英米の事件が多い。
日本人個人で登場しているのは、「殺人」の項目中、帝銀事件(1948年)で死刑判決を受けた平沢貞通だけだ。養子の武彦さんが続けた再審請求など無罪説にもふれているので、外国人が書いた割にはバランスが取れていると思った。一方、同じページで「大量毒殺」というテーマにかんして英米の類似事件も紹介している。こうした辞書や百科事典的な編集はほかの項目でもなされている。似たような犯罪は時と場所を選ばず、起きていることがわかる。
もう一つ、日本で登場しているのはヤクザだ。「組織犯罪」の項目で、イタリアのシチリア・マフィアや中国人犯罪集団「三合会」、アメリカのモーターサイクル・ギャング「ヘルズ・エンジェルズ」と並んで取り上げられている。カラー写真で刺青を紹介するのはよくあることだが、山口組の動向や人気タレントと反社会勢力の交際など最近の動きも押さえているのには驚いた。
視野が広いのも本書の特徴だ。スペインで発見された43万年前のネアンデルタール人の頭がい骨の写真を紹介している。1984年に発見された「クレイニウム17」という頭がい骨の正面には2カ所の陥没があり、力が加わった角度などから他殺説が有力になったという。人類史上、最初の殺人だったかもしれないとしている。
一方、最新の「知能犯罪」として取り上げているのが、「SpyEye」マルウェアによるデータ盗難事件(2009-2013年)や2015年のフォルクスワーゲン社による排ガス不正事件だ。
人類の誕生以来、暴力の衝動から人間は逃れることができない。そして知能の増大とともに犯罪の手法は高度化していることを痛感する。
カルト殺人として知られる「マンソン・ファミリー」事件やいくつかの猟奇的な「連続殺人」事件にも多くのページを割いている。ノンフィクションだが、犯人逮捕に向けた警察の動きがいきいきと描かれ、ミステリー小説のように読み進めることができる。
このほかには、「詐欺師たち」「誘拐・脅し」「暗殺と政治的陰謀」の項目がある。これら数々の犯罪をとおして社会と人間の本質について考えることができるだろう。
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