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夫夫関係を描いた小説のような青年の手記

僕が夫に出会うまで

 本書『僕が夫に出会うまで』(文藝春秋)は、2019年4月1日に東京都江戸川区の「同性パートナーシップ制度(通称)」の第1号として、男性同士の「結婚」を実現した七崎良輔さんが書いた手記だ。

青春小説のような面白さ

 今年(2019年)2月から文春オンラインで連載された七崎さんのエッセイが累計1800万PVとなり、急きょ書籍化された。

 七崎さんの子ども時代から青年期までの成長が、LGBT特有の問題や悩みとともに率直に描かれており、青春小説のような面白さがある。

 ウェブ連載時に特に反響が大きかったのは、子ども時代のいじめと、七崎さんがオカマと呼ばれていることを憂慮した小学校の担任がとった行動を描いた回だったという。小学2年の担任は、七崎さんを教室の前に立たせ、「七崎くんはオカマか」と同級生に意見を聞いた。また小学4年の担任は、「そのまま大人になったら大変だよ」と七崎さんを否定し、「普通」であることを強要した。それ以降、七崎さんは「大人には相談できない」と心を閉ざすようになった。

 こうしたシリアスな問題提起だけではない。中高時代の男性への片思いや北海道から上京して初めて男性と行為をもった体験などが、赤裸々に描かれている。七崎さんが男性遍歴を隠したくなかったのは次の理由からだという。

 「同じゲイの人でも、生き方はみんな違う。顔も違う。性格も違う。百人いれば、百通りの生き方がある。実際には何百万人ものゲイの人が同じ国に生活をしていて、何百万通りの生き方がある。その中の、ほんの一つの物語である僕が生きた歴史を、体裁よく、きれいごとにしたくなかった」

築地本願寺で結婚式

 七崎さんは、2015年9月に現在の夫・亮介さんと、江戸川区役所に婚姻届を出した。しかし、数日後に「今はまだ受理できません」と届けは返された。彼らは「今はまだ」という言葉に「いつかきっと」と希望を見出し、翌年には築地本願寺で結婚式を挙げた。

 浄土真宗本願寺派で男性同士の式を認めたのは初めてだった。ただ、結婚が法律で認められていないことを理由に、表向きは「仏前結婚式」という言葉ではなく、「パートナーシップ仏前奉告式」という名目だった。

 そろいの羽織袴で、本堂の仏前で指輪交換をする二人の写真が本書に収められている。友人と両家の親族が出席するごく普通の結婚式の光景だ。

 二人は「LGBTコミュニティ江戸川」を立ち上げ、行政や区議会への働きかけをした。2018年に「江戸川区の区営住宅に『同性パートナー』も入居できるよう求める陳情」は、全会派一致で採択された。そして今年(2019年)4月、「同性パートナーシップ制度(通称)」が江戸川区でも始まり、その第1号となった。江戸川区は婚姻届を受理していないが、彼らの関係を公に認定したのだ。

 「ゲイに生まれたのは何かの罰で、幸せになってはいけない人間」だと信じていた七崎さんだが、友人たちに励まされて現在の幸せを得たという。

 二人は公正証書を作成し、お互いの医療やお金に関することを取り決めている。まだ正式な同性同士の結婚が認められていない日本では、将来への備えとして必要だと思ったからだ。小説のような面白さとともに、そうした「実務的」な内容も盛り込まれているので、同性カップルには参考になるだろう。

  • 書名 僕が夫に出会うまで
  • 監修・編集・著者名七崎良輔 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2019年5月25日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・285ページ
  • ISBN9784163910314

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