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震災地復興現場の色と欲、主人公は著者そのもののダメ男

ボダ子

 「62歳 住所不定 無職」という肩書で作家デビューした赤松利市さんが、問題作を書いた。本書『ボダ子』(新潮社)である。

娘は境界性人格障害

 『ボダ子』の「ボダ」とは「ボーダーレス」の意味。境界性人格障害でリストカットを繰り返す実の娘がモデルだ。

 「週刊東洋経済」(2019年6月15日)のインタビューで、本書の「主人公の大西浩平は100%私です。彼の経歴はそのまま私の経歴です」と顔を明かして告白している。

 その大西の経歴とはこうだ。大学を卒業して就職したのは大手消費者金融。ここで頭角を現す。株式上場に向けた社内規定作りに没頭する。家に帰らない日々が続き、結婚は破綻する。

 続いて父親のつてでゴルフ場の芝生管理の仕事を始める。芝生の管理を定量的に行うノウハウを独自に開発して起業する。全国各地に100人を超える従業員を抱え、飛び回る。酒と女にのめり込む。3回目の結婚で出来た娘を溺愛する。そして彼女が境界性人格障害と診断されたことを知った時期に会社は倒産。大西は東日本大震災の復興工事にわく宮城県の工事現場で働き始める。

 タイトル通り、娘の障害に向き合う大西の父親としての側面も描かれるが、本書の白眉は、膨大な復興資金が流れ込み、変調をきたしている被災地の現場のディテールだ。

 工事現場には全国から労働者が集まり、ピンハネ、頭数の水増しなど不正が横行している。営業部長の肩書きを持つ大西だが、現場では労働者のいじめの格好のターゲットとなる。

 一発逆転をねらい、自治体やゼネコンを回り、儲け話を探す大西に、いいネタが舞い込む。大西自身も不正に蓄財を始め、ひょんなことで知り合った女性に入れ込む。

 暴力と金と性のさまざまな様相が執拗に描かれる。被災地について、これほどあけすけに書いた小説は初めてだろう。「暴力と性」については知らないが、震災後、仙台市や福島県いわき市などは復興景気にわいている、という話は地元の人から聞いたことがある。現場で働いていた著者だけに説得力がある。

 現地に居られなくなった大西は最後にある行動に出る。ボダ子はいったいどうなるのだろうか?

 大藪春彦新人賞受賞作の『藻屑蟹(もくずがに)』は、原発事故と除染、そして貧困がテーマだった。受賞第一作の『鯖』(徳間書店)は、カネ儲けに奔走する漁師たちが主人公だった。

 赤松さんは、今も漫画喫茶に寝泊まりして小説を書いているという。「色と欲で破滅していく人間が私のテーマ」と語っている赤松さん。これほど共感を呼ばない主人公はめったにいないだろう。しかも著者そのまま、というところに小説家の志を見た。現在は63歳になった。

  • 書名 ボダ子
  • 監修・編集・著者名赤松利市 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2019年4月20日
  • 定価本体1550円+税
  • 判型・ページ数四六判・331ページ
  • ISBN9784103524816

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