トマト、大根、レンコン、カボチャ、ゴボウ、海藻......これらを材料にして作られる食品は何か。答えられる人は業界関係者、もしくはよほどの呑兵衛だろう。答えは焼酎。本書『本格焼酎 マニアックBOOK』(シンコーミュージック)は、そんなことまで紹介している。文字通り焼酎マニア向けの1冊だ。
商品化されている材料は、ほかにもふんだんにある。ギンナン、小豆、ゴマ、うどん、ショウガ、ワサビ、山芋、梅の種子、ワイン、ビール、日本酒......まあ、この辺りまでは想像がつく。だが、茶葉、笹の葉、コーヒー、牛乳とくると、形而上学的な様相すら呈する。
監修者の葉石かおりさんは、酒を専門とするジャーナリストでエッセイストだ。「酒のプロが、正しい知識をもって、酒のおいしさを消費者に伝える」ための講座「サケ・アカデミー」を主宰する一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションの理事長も務める。
本格焼酎と言っても単に高級感を表すためのキャッチコピーではない。焼酎には甲類、乙類、甲乙混和の3種類がある。本格焼酎は乙類だ。もろみを単式蒸留器で蒸留したもので、もろみの風味が残る。このため、酒造元は独自の風味を出すために工夫を凝らすので、本格と言われる。甲類は連続式と呼ばれる方法で半ば工業的に徹底蒸留された焼酎。もろみの風味はほとんど残らない。混和焼酎は甲乙をブレンドしたものになる。
分類は、まあどうだっていい。消費者の興味は、味と香り、どんな肴に合うのか、だ。酒店の焼酎コーナーには、おびただしい数のボトルが並んでいる。好みに合うものを選ぶのは難しく、半ば賭けをする気分で選ぶのが実情だろう。
そんな悩みに、本書は選択の鍵を提供する。一例を挙げると香りについて......。一部銘柄には個別の解説があるが、それら以外は裏ラベルにある材料が傾向を示すことから推測できる。
サツマ芋:芋の品種によって大きく変化する。サツママサリ・ジョイホワイト→果物、タマアカネ→紅茶や果物、黄金千貫→香りは弱く、甘みとコク 芋の繊維に香り成分のモノテルペンアルコールが結合。これが麹によって切り離され、いったんバラの香り成分に変化し、その後、酵母や蒸留により別のバラやライラック・オレンジ、ラベンダーといった香りに変化する 麦:パンを焼いたような香ばしい風味 かつてはスッキリしたものが主流だったが、近年は香りの強いものが人気 米:米独特の香り。芋や麦に比べて特徴がない 近年は、酵母に工夫を凝らした清酒のような吟醸香のものや、蒸留法を変えて香ばしく焼けたせんべいの風味のものもある
といった具合だ。ピンポイントとまではいかなくても、大まかな指標にはなるはずだ。冒頭に挙げたゴボウや海藻、牛乳などについては、原料の特徴を残した香り・味わいだが、詳しくは実際に本書を手に取ってもらいたい。
このほか、「プロが教える焼酎の飲み方」では、基本の前割りを紹介。焼酎と軟水を1対1で混ぜ一晩以上置く。分子の大きさが異なる焼酎と水がこなれて口当たりがまろやかになるそうだ。最も一般的なお湯割りは、焼酎2、湯3の割合。グラスを2つ用意して、1つに湯を入れ50度ほどに冷めたところを、焼酎の入ったグラスに縁に沿うように注ぐ。香りを飛ばさないためだ。撹拌も不要だそうだ。
帯に「焼酎新時代を鷲掴み」などとあるように軽いノリで書かれているような印象を受けるが、内容は緻密で丁寧だ。蒸留器の種類や蒸留法の違いによる焼酎の変化、健康への影響、ブレンダ―の秀でた嗅覚能力などにも触れている。
『マニアックBOOK』にはほかに『日本酒 マニアックBOOK』もある。
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