最近、下重暁子さんの『極上の孤独』など、「孤独」を冠した本が目につくような気がする。本書『孤独という道づれ』(幻冬舎)もそういう趣向の本かと思ったら、少し違っていた。
日本とフランスを行き来した60年の苦楽や、数々の別れで気がついた「孤独」という宝ものについて、女優・作家の岸惠子さんが綴ったエッセイ集だ。本文中で「孤独」という言葉はほとんど使われていないが、一人で暮らし、仕事をする女性の矜持がくっきりと浮かび上がってくる。
プロローグにドラマのオファーを断った話が出てくる。パリ帰りのマダム役だったらしい。
「わたしはパリ帰りではなく、パリに四十三年も苦楽を積んで暮らしたので、意味もないのにカタチだけのパリ帰りや、それを匂わせるような言動は、みっともなくて恥ずかしくて出来ないのだ」
そしてまだ演じる夢があるという。「ちょっとボケていて、それを巧みにあやつる悪だくみと、頓智の効いた笑いを呼ぶ、せつない喜劇がやってみたい」。そう書いた上で「そんな気の利いた作品が生まれる土壌を、我が愛しの日本国は、今、持ち合わせていないことは承知のうえ残念に思う」とも。
高齢者をカモにするオレオレ詐欺の電話がかかってきた話も面白い。横浜高島屋の時計売り場と名乗り、岸さん名義のクレジットカードで買い物をしようとする女性がいる、と切り出す。ここからのやりとりが抱腹絶倒であるとともに、へえーと思う。「敵は、悪さの修業を積み、あっさりとした態度で、考え抜いた智謀を、数人の連携プレイで執拗に丹念に攻めてきます」と警告する。
オレオレ詐欺犯が、有名百貨店の名前を騙ったりもすることは知らなかった。一連の電話攻勢では、地元警察署の警察官を名乗る人物まで登場したというから念が入っている。
岸さんの年齢は本書の著者略歴には書かれていないが、ご本人は本文中でしっかり明かしている。たまに映像でお見かけするご尊顔からは想像できなかった。
お若く見えるという質問に対しては、
「皺はわたしにもいっぱいあるのよ。それを目立たせない力がわたしにはあるかもしれない」 「受けた傷や、躓きを自分で治すのよ。へこたれないのよ。誰かに頼ったりしないのよ。そんな生活をしているわたしは年を取っている暇なんかないのよ」
「孤独」と口にするのが甘ったれている、と思うほど意気軒昂な岸さんである。
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