漫画家・コラムニストのカレー沢薫さんによる『ブスの家訓』(中央公論新社)は、カレー沢さんが自らの家庭生活を綴ったエッセイだ。
真っ先に目に飛び込んでくるのは「ブス」の二文字。他人に対して使えば炎上し、自分に対して使えば自虐になる。扱いの難しい言葉をかなり目立たせている。次にイラスト。4匹の猫を従えた人物が、ハンマー片手に背後から忍び寄る。人間と動物の中間的な全裸の生物は、自らの置かれた危機的状況に気づかぬまま、片手を挙げ笛を吹く。この謎の生物は、どうやらカレー沢さんのようだ。
カレー沢薫さんは、1982年生まれ。山口県出身、在住。生まれて初めて投稿した漫画が新人賞で落選したにもかかわらず連載化が決定し、2009年「クレムリン」で漫画家デビュー。独自の下から目線で放つコラム&エッセイにもファンは多い。主な漫画作品に『やわらかい。課長起田総司』『ヤリへん』、エッセイに『負ける技術』『ブスの本懐』などがある。
「結婚生活8年目、ブス生活36年目。俺にももちろん家族がいる。主婦になっても俺であることに変わりはない。全国の愛と金のある読者に捧げる、カレー沢流家庭エッセイ」
カレー沢さんの著書を初めて読む評者は、本書の帯にある「ブス」「俺」の文字に最初驚いたが、本書を読み進めていくとこれが「カレー沢流」なのだと納得した。「第1章 『ブスの実家』」「第2章 『ブスの学生時代』」「第3章 『ブスの1年』」「第4章 『ブスの住まい』」「第5章 『ブスの家事』」「第6章 『ブスのくらし』」と、目次も「ブス」が頻出する。
カレー沢さんは、自身を「ブス」「非リア充」と称し、あまり部屋から出ない、友だちがいない、部屋が汚いなどなど、自身のマイナスの部分を大胆に披露している。劣等感が、カレー沢さんの執筆の原動力になっていると感じた。
カレー沢さんは根本的に劣等感を抱えているため、心が痛むエピソードが多い。
「私が現在このような、飛行機がジャングルに墜落し、そこに住むゴリラに育てられたかのような風貌と生活をしているのは、親や祖母が教育しなかったわけではなく、私がそれを全無視したため、『諦めた方が早い』という結論に達したからである。」
「『ちょっとの距離』の場合ささない、数十秒のために傘をさすのが面倒くさいのだ。この『ちょっとを面倒くさがる』の積み重ねでBP(ブスポイント)を稼ぎ、スタンプカード満タンで『ブス』を手に入れているのである。」
本書は8対2もしくは9対1の割合で、心が萎えるエピソードと心温まるエピソードが綴られている。まえがきに、カレー沢さんの徹底した下から目線と家族への感謝が凝縮されている。
「私の家族に、特筆すべきことは何もない。あるとしたら著しく社会性に欠ける私の存在ぐらいだ。......元凶は大体『自分の家族は何の問題もない普通の家族』と思っているものなのである。本書は家庭の腫瘍の目から見た『普通の家族の幻覚』が綴られている。」
「私は自分には恵まれなかったが、家族には恵まれていた、と改めて気づかされた。普通以下の私が、今まで何とか、やってこれたのは家族が普通だったからである。」
カレー沢さんは極度に劣等感が強いように見えるが、客観的な視点から徹底的に自己分析しているとも言える。等身大の自分を認め、そこからスタートしている。自分を過小評価しすぎでは......とも思うが、自分をまるごと知って受け入れた上で一歩踏み出す姿勢は見習いたい。
本書は、「マイナビニュース」にて「カレー沢薫のほがらか家庭生活」のタイトルで連載されたエッセイのうち、2016年8月29日から18年8月15日掲載分から65編を選んで加筆・修正して収録したもの。連載は現在も継続中。
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