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「国際キログラム原器」が「退位」した

新しい1キログラムの測り方

 私たちに身近なところでも意外なものが「退位」した。2019年5月20日、国際単位系(メートル法)の中の質量の単位・キログラムの定義が130年ぶりに変わったのだ。これまで1キログラムは、「国際キログラム原器」という、かつては「標準の女王」ともいわれていた1キロの白金イリジウム合金製の分銅から、量子力学の基礎物理定数である「プランク定数」をもとにした定義に変えられた。

 本書『新しい1キログラムの測り方』(講談社ブルーバックス)は、1キログラムという質量の定義の歴史と、新しい定義の意義や測定の努力などを、当事者が一般人向けに書いた。素人には理解しづらいところが多々あるが、そんなところは読み飛ばして、当事者の苦労や達成感を共に味わいたい。

50マイクログラムのずれが出た

 定義変更が迫られた原因は、過去100年間で、キログラム原器と、それと一緒に作られた6個の副原器との間に、微妙な違いが出てきたからだ。その差は最大約50マイクログラム。原器と副原器、どちらが狂ったのかの区別はつかない。原器が狂ったのなら、定義上、1キログラムが今と昔では違う事になってしまう。わずかな違いとはいえ、これではまずいことは素人でもわかる。

 実は、長さの単位・メートルも、かつてはメートル原器という物差しが基準だったが、今は「299,792,458分の1秒の間に、光が真空中を伝わる距離」という定義になっている。質量も30年ほど前に、物理的に不変のものを根拠としたものに変えよう、という機運が高まった。

 浮上したのはプランク定数。エネルギーの最小単位に関わる定数だが、アインシュタインが示したように、エネルギーは質量と等価である。プランク定数を精密に測定すれば、1キログラムの精密な定義を作ることできる。米国やカナダを中心に国際研究グループがプランク定数の正確な測定作業を始めた。

 一方、日本は化学の分野で使われる1モルの分子の数・アボガドロ数をできるだけ精密に測定する方向から攻めた。実は、プランク定数とアボガドロ数は反比例の関係にあり、アボガドロ数を精密に測定できれば、精密なプランク定数を算出できるからだ。

 アボガドロ定数の測定には、日本の得意なシリコン結晶製造技術が最大限活用された。ただ、シリコンには3種類(質量数28、29、30)の同位体がある。これらがごちゃまぜの結晶では正確な分子の数はわからない。シリコン28だけをどうやって集めようか。困っている時に現れたのがロシアだった。余っていたウラン濃縮用の遠心分離機を使って、シリコン28だけを集めようと申し出てくれた。

アボガドロ定数を精密に

 結局、日、独、伊、露、米、英、豪、欧州などの国際チームが協力して研究を進め、アボガドロ定数を「6.022140758×10の23乗/モル」、下9ケタまで決めることができた。これから求めたプランク定数は、直接プランク定数に挑んだものとほとんど同じ精度で一致した。新しい定義による1キログラムの定義の不確かさを10マイクログラム以内に収めることができたという。(ちなみに、評者は高校で、アボガドロ数は6.023×10の23冪(べき)個と習った) 日本の研究チームは、この作業の過程で、1キログラム相当のシリコン球2個を作ったが、これは精密な1キログラムの物体として、旧来の「キログラム原器」に替わる役割をになうことができる。

 蛇足ながら、評者が本書を手にしたのは本年5月20日、まさに新しい定義に替わった日だった。本書を読み終えた後、この小さな偶然に気づいて、ちょっと嬉しかった。

  • 書名 新しい1キログラムの測り方
  • サブタイトル科学が進めば単位が変わる
  • 監修・編集・著者名臼田孝 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年4月20日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・246ページ
  • ISBN9784065020562

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