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医学部志望者は必読! 研修医はこんなに厳しい日々

泣くな研修医

 研修医とは、2004年から大学卒業後、医師国家試験に合格した者に2年以上義務づけられた研修期間中の医師のことである。医師であることは間違いないが、臨床経験が少ないため、的確な診察や処置が出来るかどうかにおいては「半人前」であることは否めない。

 本書『泣くな研修医』(幻冬舎)は、鹿児島の大学を卒業後、東京・下町の総合病院で研修医1年目の雨野隆治を主人公にした物語である。救急外来の当直中に交通事故で運び込まれた5歳の少年、山下拓磨の手術に第二助手として立ち会う。手術中に失神して倒れた隆治は何としても少年を生かしたい、と連日病院に泊まり込むのだが......。

 著者の中山祐次郎さんは、福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として勤務する医師で、『医者の本音』(SB新書)などの著書がある。鹿児島大学卒業後、都立駒込病院で研修した自身の経歴が、主人公と重なる。

 現役の医師(しかも中山さんは医師臨床研修指導医)が書いただけに、救急外来の緊迫した雰囲気、すばやい診断と処置、手術シーンのリアルさは、ただごとではない。アメリカの医療ドラマの名作『ER緊急救命室』を連想するのは評者だけではないだろう。

 少年の術後の経過を軸に、さまざまな患者とのかかわりが描かれる。94歳の胃がんの男性は生活保護を受け、認知症で一人暮らしだった。カンファレンス(会議)での結論は、BSC、治療をしないことだった。

研修医も医者は医者

 後期研修医(4、5年目)の先輩のように、手際よく診察や手術ができるようになれるのか? 新人の隆治の苦悩の日々は続く。「研修医といっても医者は医者。同じ医師免許一つでやってるんだよ」と先輩にミスを叱られ、涙をこぼす隆治だった。著者は、こんな無慈悲なことも書いている。

 
「外科医の会議は厳しい。間違っていると、人格を否定するようなことを簡単に言われる。そして間違いが続くと、本当に存在を無視され、『この研修医はいないもの』として扱われる。誰からも叱られなくなり、淡々と雑用を数カ月こなして終わる」

 以前は、卒業した大学の医局に残る医師が多かったが、研修医制度の導入後は、医師臨床研修マッチングにより、臨床研修を受ける病院が決まる仕組みになった。地方の一部の病院には大学から若い医師が派遣されなくなり、診療科が閉鎖するなどの事態も起きている。また、虎の門病院、聖路加国際病院など大都市の有名病院が研修先として人気が高いようだ。

 実は中山さんは、東日本大震災で被災した福島第一原発近くの広野町の病院で院長が亡くなり存続が危ぶまれた際に赴き臨時院長を務めた。その後、福島県郡山市の現在の病院に移った。

 医師の仕事の厳しさを知った上で、医師をめざしてほしいという著者の思いが伝わってくる。成績がいいからと医学部を受けて合格しても、どうにもならない世界が待っているからだ。   

  • 書名 泣くな研修医
  • 監修・編集・著者名中山祐次郎 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年2月 5日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・270ページ
  • ISBN9784344034235
 

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