3月17日(2019年)に内田裕也さんが、前年9月に亡くなった妻の樹木希林さんの後を追うように息を引き取った。希林さんの著書『一切なりゆき』(文藝春秋)は売れ行きランキング1位で、ミリオンセラーをうかがう勢い。2月に発売された『120の遺言 死ぬときぐらい好きにさせてよ』(宝島社)も3月12日現在の調べで2位にランクイン(トーハン週間ベストセラーランキング)し、注目は集まるばかりだ。
そんな中、希林さんが33歳の時の「伝説の対談」が書籍化された。本書『心底惚れた』(中央公論新社)には、渥美清、五代目中村勘九郎、いかりや長介、草野心平、荒畑寒村、山城新伍ら12人が登場する。掲載誌は「婦人公論」。最近はおとなしくなったが、当時の「婦人公論」と言えば、露骨な性愛ドキュメントが売り物だった。この対談の聞き手に起用された希林さん(当時の芸名は悠木千帆)もまた、相手に遠慮なく切り込んでいる。
当時、20歳だった勘九郎に「セックスは最高だと思うことありますか。おぼれたりする時期というの、あります、今? 何日間もみたいに」とか「今までフリーになったときあります。だれもいないときって」とずばり尋ねている。
対談の最後の「悠木千帆の一言」でも「いま実にすがすがしい男に成長した。男の勝手さや、やさしさが、好感のもてる一人の人間をつくり出している。だけどそこには、青年を感じることができなかった。たぶん、いっとう大切な充足感と怒りが、どこかに押しこめられているからだろう」と梨園の御曹司に対して率直な感想を述べている。
もちろん年長者にもストレートに対面している。当時44歳だったいかりや長介とのやりとりはこうだ。
悠木「終わったあとに、その女の髪の毛をなでてやりたくなるような女ならいいわけでしょう」 いかりや「まあそうだね。ぼくはセックスというのは中じゃなくて前後だと思うの」
「みんなゲロさせられちゃった」とこぼす、いかりやを「そうでもないでしょ。頑張ってください」といなしている。
当時72歳の詩人、草野心平には「性欲というの、年をとるとどうなるんでしょう、女の人の場合」と尋ね、「やっぱり少なくなるんじゃない?」と答えた草野に「でも、ありますよね、年とっても」と切り返している。
「悠木千帆の一言」で、草野に男の色気を感じた、と書いている。それは若さや容姿ではなく、「恥じらいから生まれるものだと思っています」。題名の「心底惚れた」はここから取ったものだ。
小説家の津島佑子、ジャズシンガーの安田南との「男は何の役にたつのか」と題した座談会も「特別篇」として収録している。
希林さんのことばを集めた本と読み比べると、若い時期の対談だけにより攻撃的な姿勢が目立つ。「もう絶対あれとは対談するな」と業界でも言われたという。芸能界という世界に身を置きながら、自己の尊厳を重んじ、孤高とも言える生き方をつらぬいた希林さん。この対談集には、相手との間合いをはかり、一気に切り込む裂ぱくの気合いが感じられる。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?