本を知る。本で知る。

オリンピック後の東京は外国人があふれていた 驚愕の近未来小説

東京の子

 『オービタル・クラウド』で第35回日本SF大賞と第46回星雲賞日本長篇部門(小説)を受賞した藤井太洋さんの新作『東京の子』(株式会社KADOKAWA)が出た。本書はSFではなく大型エンターテインメント。東京オリンピックが終わった後、2023年の東京・湾岸エリアを舞台にした近未来小説だが、さまざまな予感に満ちている。

 外国人技能実習制度が今春(2019年)見直され、実質的に「移民」の受け入れが始まろうとしている中、何が起きるのかを予言したような作品だ。東京の人口は1300万人から1600万人に増え、増加分はすべて外国人だった。

 東京オリンピック・パラリンピックの開催費用を回収するため、会場は民間に払い下げられ、ショッピングモールやタワーマンション、大学などに改造され、その工事に多くの外国人が従事していた。

 主人公の仮部諫牟(かりべいさむ)通称カリブは、東京でアングラな「何でも屋」をする青年。小学生のとき、障害物を乗りこえたり素早く移動したりするスポーツ「パルクール」の動画配信を行い、海外で「東京の子」と異名をとったが、育児放棄した親から逃げるため別の戸籍を買い、ひっそりと生きていた。

 主に失踪した外国人労働者を捜索することで生計を立てていたが、ベトナム料理店のスタッフの女性を探す仕事を引き受ける。店はオリンピック跡地に生まれた大学校「東京デュアル」にあった。正式名は「東京人材開発大学校」。学生数は4万人、留学生も多かった。サポーター企業と提携し、学校で学びながら企業で働くという二元的な制度がデュアルの由来だ。

 学生は卒業後にサポーター企業に入社すれば、その半額が免除される最大850万円の奨学金が無利子で提供される仕組みで、失踪したベトナム人女性も学生だった。デュアルのシステムは人身売買ではないか、という反対運動の渦中にカリブは巻き込まれる。オリンピック後の東京で、学生たちは労働に疲弊していた。デュアル最大の学科、ストレージ戦略科の学生たちは通販倉庫に勤務、6つのシフトで24時間、365日稼動していた。女性や学生たちの運命はいかに......。

「パルクール」の疾走感

 疾走感にあふれた作品だ。「パルクール」のイメージ通り、主人公は東京を走り回る。作品の中でITも大きな役割を果たすが、「パルクール」の伸びやかな身体性がさわやかに感じられる。一種のディストピア(理想郷の反対)のような数年後の東京を描きながらも、明るい希望さえ漂うのは、魅力的な主人公の造形によるものだろう。

 著者の藤井太洋さんは、1971年生まれ。東京基督教大学を中退、舞台美術、イラストレーターの後、エンジニアとしてPCソフト開発会社に勤務。スマートフォンで執筆した小説『Gene Mapper』を電子書籍で販売、2012年のKindle本で最も売れた小説となり、作家に転身した。そんな経歴も作品に生きている。   

  • 書名 東京の子
  • 監修・編集・著者名藤井太洋 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年2月 8日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・360ページ
  • ISBN9784041052679
 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?