年が明けて初釜の時期が近づいてきた。本書『茶のある暮らし 千宗屋のインスタ歳時記』(講談社)を眺めていると、お茶をたしなまない人でも、お茶の素晴らしさにうっとりするに違いない。インスタに公開された多数の写真を見ながらページをめくるだけ。内容を理解するのに難しい理屈はいらない。何とも視覚的、映像的に「茶」を紹介した一冊だ。
著者の千宗屋・武者小路千家家元後嗣は1975年生まれ。日本の由緒ある伝統文化「茶の湯」のニューリーダーとして知られる。慶応大学の大学院(中世日本絵画史)を修了し、文化庁文化交流使としてアメリカ ニューヨークに一年間滞在。現在は慶應大学特任准教授、明治学院大学非常勤講師もしている。
17年にはキュレーターとしてMOA美術館で「千宗屋キュレーション 茶の湯の美 コレクション選」を開催した。朝日新聞のオピニオン面では、森友学園や加計学園問題で注目を集めることになった「忖度(そんたく)」について、伝統文化の立場からコメントもしたことがある。『茶―利休と今をつなぐ』、『もしも利休があなたを招いたら』などの著書もある。日本文化への深い理解に基づいた、多彩な活動ぶりが目立つ。
伝統文化の世界にいながら、新しい動きにも目配りしている。それゆえ、以前からツイッターや、フェイスブックなどSNSで活躍していたのかと思ったら、そうではなかった。苦手意識があり、登録はしたが、発信しない状態が続いていたという。
ところがヴィジュアルがメインで、自分がいいな、美しいなと思った情景を写真や動画ですぐに撮れるインスタにはハマってしまった。いつのまにか日々の営みに欠かせないツールになってしまったという。
写真中心の本なので、外国人も気安く手に取れる。あれこれ説明するより、ヴィジュアルで感じてもらうのがいちばんだ。「初釜」「節分」など毎月の行事を中心に写真を並べている。そこには日本語だけでなく短い英文の説明も添えられている。国際的に活躍する千さんらしい配慮だ。
それにしても写真が上手い。撮影機材については書かれてなかったと思うが、少なくともスマホで撮っているとは思えない。ライティングも巧み。影が映り込んだりしていないし、シャープな仕上がりだ。正方形の判型もすっきりしている。
男性の場合、東京から関西に転勤すると、いろいろ面食らうことがある。最大の難物は「茶」ではないだろうか。何かの席で、茶がふるまわれる。その時の作法が問われる。東京で経験することがない。上手くできるかどうか。関西では「般若心経」などもすらすら唱えられる人が多い。「関西人」のインフラとして、寺社に関する薀蓄や茶は欠かせない。日本の伝統がしっかり守られている。
奈良の興福寺で先ごろ中金堂が再建され、落慶法要が行われた。そこでは、観世流の浅見真州さんによる能や華道家元・池坊の池坊専好さんの献花、千宗屋さんの献茶が行われたそうだ。このあたりも、いかにも関西らしい設えだ。
当欄ではお茶関連で、森下典子さんの『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』も紹介している。茶席に縁遠い人は、本書でせめて気分だけでも味わってみよう。
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