2018年10月13日に全国公開される映画「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」。茶道教室を舞台にした作品で、主演は黒木華さん。9月15日に亡くなった樹木希林さんもお茶の先生役で出演しており、実力派女優の共演に注目が集まっていた。
原作は、『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(森下典子著、新潮文庫)。なんと落語家で人間国宝の柳家小三治さんも愛読しているという。
『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』は、著者である森下典子さんが大学生の頃から約25年にわたり通い続けた茶道教室を通じて得た気づきや学びを自らの人生に重ねながら綴ったエッセイ本だ。2002年に飛鳥新社から発売された後、08年に新潮文庫化された。じわじわと人気が広がり9月10日時点で24回、版を重ねているロングセラー本で、台湾や中国などでも翻訳されている。
人気の理由は、季節の変化を五感で味わうことを体験した森下さんの緻密な描写力もさることながら、幅広い年齢層の胸を打つ人生訓的な「気づき」の数々が記されていることだ。自分を見つめ直すきっかけにもなると、この本を「マインドフルネス本」などと称する人もいる。
愛読者のひとりである落語家の柳家小三治さんは、新潮文庫の解説ページで「(書店の「茶道・華道コーナー」に置かれた本書を見て)ここにあるべき本じゃないんだよこの本は。(中略)いや、ここにも一冊くらい置いてもいいけど、とに角ここじゃないんだよ。(中略)哲学の本、人生読本じゃあ堅いよな。生きていく楽しみ......日本国民全員の副読本、いやあ、なんだか外れていくなあ。だからそういう本なんだよ」としている。
解説の中で、柳家小三治さんは本書を独演会で朗読したこともあると明かしている。「私の朗読は『まえがき』の次まで続きます。『武田のおばさん』まではどうしても読んでしまいます。またいいんだこのおばさんが。いいなあ。武田のおばさん。会ってみたいなあ」と書いているのだが、武田のおばさんというのは茶道教室の先生で、映画では樹木希林さんが演じている。
本書には、印象的な言葉がいくつも出てくるのだが、なかでも注目したいのは
「世の中には、『すぐわかるもの』と、『すぐわからないもの』の二種類がある」という言葉だ。これを読んで映画「日日是好日」の監督を務めた大森立嗣さんは撮りたいと思ったそうだ。
著者の森下さんは、1956年神奈川県出身。『週刊朝日』の名物コラム「デキゴトロジー」の記事を書くライター経験をもとにしたエッセイ『典奴どすえ』(角川文庫)で1987年にデビューし、以降、雑誌などにエッセイを執筆。エッセイに添えるイラストも描き、その味のあるやさしいタッチは定評がある。茶道では2010年に「表千家教授」の資格を得た。今回の映画にも茶道関連のアドバイザーとして撮影に協力している。
ちなみに「日日是好日」というタイトルは、森下さんが通っていた茶道教室に飾られていた禅語の書に由来する。「毎日いい日だ」という意味だけではない。禅の公案だから、「一喜一憂するな」など、さらに深い戒めの意味もある。まさに、この言葉も「すぐわからないもの」の一つとなっている。
「すぐにわからないものは、時間をかけて少しずつ気づいてわかってくる」――本書を読み、映画の試写を観て、少しは納得できたように思う。
猛スピードで過ぎていく毎日を見つめ直し、ありのままに、いま生きることの大切さを教えてくれる一冊。映画と合わせて読んでいただきたい。
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