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箱根駅伝「3区」はなぜ重要か

箱根駅伝 強豪校の勝ち方

 年始のスポーツと言えば箱根駅伝。テレビの視聴率は30%に近づく驚異的な数字となり、沿道に繰り出す熱心なファンも約100万人。母校や贔屓の大学の激走に一喜一憂する。

 最近、驚くのは年末になると特集する雑誌が一斉に発売されることだ。書店やコンビニの棚にあふれている。もちろん単行本でも「箱根駅伝」を冠した物が続々出版されている。そうした中で本書『箱根駅伝 強豪校の勝ち方』(文春新書)は、大ベテランの薀蓄に富んだ、かなり手堅い作りの一冊となっている。

駅伝ファンにはおなじみ

 それは著者が碓井哲雄さんだからだろう。1941年生まれ。高校時代から長距離選手として注目され、中央大学では箱根駅伝に3年連続出場。中央大の連覇に貢献した。その後はコーチとして母校復活の土台を築いた。95年からテレビ中継の解説者を務めており、駅伝ファンにはおなじみだ。

 選手として、指導者として、そして各校をバランスよく眺める解説者としての豊富な経験が積み重なって、本書が生まれている。全体として冷静に「箱根」の裏表を分析するという姿勢につらぬかれている。

 したがって本書は今年の優勝の行方を占うというものではない。「第一章 箱根駅伝10区間攻略法」「第二章 箱根駅伝 強豪校の系譜」「第三章 箱根駅伝が分かる13の視点」という章立て。どちらかと言えば箱根駅伝の構造的分析に近い。

 たとえばコースについて。かなりの駅伝通でも、関心を持つのは花の2区、山登りの5区、山下りの6区ぐらい。あとはほぼ平坦な道を淡々と走っている、という感じではないだろうか。

 ところ、そこがプロとアマの違いだ。たとえば3区。エースがぶつかる2区が終わり、前方に富士山、左に相模湾が広がる。なんとなくゆったりした雰囲気が漂うが、碓井さんは「監督たちの戦術が激突する」区間だと見る。最近は2区だけで態勢を固めるのが難しくなっている。そこで「2区+3区」という考え方で、この2区間をセットとして、主導権をつかもうとする傾向が強まっているという。

 その戦術で大きな効果を上げたのが早稲田の渡辺康幸監督だったという。エース竹澤健介選手を3、4年の時は3区に起用し、2年連続この区間で2位に浮上した。その後、他大学でも採用するケースが増えて来たそうだ。過去の名勝負やアクシデントも全部頭に入っているので、解説に納得できる。箱根駅伝の戦法も年々進化していることが分かる。

「自主性」がないと伸びない

 碓井さんは箱根駅伝とは、「自分で考えることが求められるロードレース」だと規定する。コース、天候、ライバル校とのタイム差。さまざまな要素を勘案しながら、たすきを受けて選手は走り出すわけだから確かにそうだ。ただ監督車の指示に従っておればいいというわけではない。

 このところ箱根では青山学院大学が4連覇。黄金時代を築いている。今回も、すでに前哨戦とされる出雲や全日本の駅伝で優勝し、専門家の間では5連覇を予想する声が多い。青学がなぜ短期間で頂点に上り詰め、君臨できているのか。本書では原晋監督の勝因や指導法についても触れられている。

 ひとつ、碓井さんと共通するのは、原監督も選手の「自主性」を尊重しているということだ。

 かつては箱根から世界に通じる選手が出ないということで、箱根の功罪が議論されたこともあった。しかし、このところマラソンでも大迫傑選手、設楽悠太選手らの箱根活躍組がリードする形になっている。大迫選手は自らの決断でアメリカに渡った。設楽選手は、30キロ走以上はやらないという「自分流」にこだわっていることで知られる。

 このあたりは、期せずして、碓井さんや原監督の指導と共通しているのかもしれない。

  • 書名 箱根駅伝 強豪校の勝ち方
  • 監修・編集・著者名碓井 哲雄 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 定価本体920円+税
  • 判型・ページ数新書・238ページ
  • ISBN9784166611928

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