「心配性のあなたに贈る物語」――。このキャッチフレーズを見て、似鳥鶏(にたどり けい)さんによる本書『きみのために青く光る』(株式会社KADOKAWA)に興味が湧いた。不安を取り除く方法を紹介する心理学系の本は見かけるが、小説は珍しい気がする。本書は、15年に株式会社KADOKAWAより単行本として刊行された『青藍病治療マニュアル』を改題して文庫化したもの。「犬が光る」「この世界に二人だけ」「年収の魔法使い」「嘘をつく。そして決して離さない」の4つの物語が収録されている。
4人の主人公が発症している病は、俗に「青藍病」(せいらんびょう)、一般に「異能症」と呼ばれる。それは心の不安に根ざして発症する異能力で、力が発動すると身体が青く光るという共通点がある。ただ、4人の能力は「付近の動物に自分を攻撃させることのできる能力」(「犬が光る」)、「手を触れもせずに殺す能力」(「この世界に二人だけ」)、「昨年の年収が見えてしまう能力」(「年収の魔法使い」)、「死の運命に捕らわれた人が出すSOS(蛍のような光)を見る能力」と、物騒なものからユニークなものまで様々だ。
「犬が光る」の僕は小学一年生の頃、犬に噛まれたことがきっかけで動物恐怖症が始まった。それから「付近の動物に自分を攻撃させることのできる能力」を持つようになる。「動物を見ていると、無意識のうちにそれに噛みつかれたりつつかれたりすることを想像してしまう。そうすると恐怖感に歯止めがきかなくなる。能力が発動するのはそんな時だった」。
医師によると「動物を見て『噛まれるのではないか』と不安になるあまり異能症が発現し、本当に噛まれることができるようになった」という。それなら、なるべく動物から距離を置く生活を送ればいいのだが、僕が好きになった相手は、よりによって動物病院の娘だった。僕は「怖い怖いと逃げていては、恐怖症は絶対に治らない。勇気を持ってぶつかるのだ」と、あえて犬に近づく作戦に出る。その後、とんでもなく危険な状況に身を置くことになるが、僕は最終的に動物恐怖症を克服できるのか?
4人の主人公は、特殊な能力を持つゆえに自らが命の危機にさらされる局面に遭遇する。その不思議な力は、使いようによっては人の生死を左右するほど深刻なものだが、何のために力を使うことが最善なのか、彼らは見出していく。本書は、これから先に起きるかもしれない出来事について、どちらかと言うとマイナスの出来事について、もしこうなったら...と思考を巡らせてしまう人に、「心配」や「不安」を感じやすい性格を変えようとするよりも、そのことが何かの役に立つかもしれないと、発想を転換する手助けになるだろう。
著者の似鳥鶏さんは、1981年千葉県生まれ。2006年『理由あって冬に出る』で鮎川哲也賞に佳作入選し、デビュー。同作から始まる「市立高校」シリーズ、『午後からワニ日和』から始まる「楓ヶ丘動物園」シリーズなどの人気ミステリシリーズがある。「戦力外捜査官」シリーズは、14年にドラマ化(日本テレビ)された。
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