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台湾で大ヒットした小説、映画公開で初の邦訳

あの頃、君を追いかけた

 本当にこれ、自伝的小説? と思うほどハチャメチャ感が満載であり、著者は濃い青春時代を過ごしたのだなぁと感心する。本書『あの頃、君を追いかけた』(講談社)は、今年(2018年)10月に公開された映画「あの頃、君を追いかけた」(監督 長谷川康夫/主演 山田裕貴、齋藤飛鳥)の原作を初めて邦訳したもの。

 著者の九把刀(ジウバーダオ)さんは、本名ギデンズ・コー(英語名)。1978年、台湾出身。大学在学中の2000年からネットに小説を発表し、ネット作家として有名になり、多くの作品が映画、テレビドラマ、舞台、漫画、ネットゲーム化されている。これまで79作品を発表し、台湾の数々の賞を受賞。映画監督、脚本家の顔も持ち、11年に公開された映画「あの頃、君を追いかけた」は、自身で監督を務め、香港における中国語系映画の興行成績で史上2位となった。

 1990年、主人公・コーチントン(コートン、著者自身)の中学2年の夏から物語は始まる。コートンは、授業中にやたら冗談を言ってふざけるのが大好きで、周囲の同級生につっかかってばかり。担任の先生に目をつけられて、クラスのブラックリストのトップの座についたコートンは、罰として壁ぎわの席に行かされ、そのうち壁と話すようになる。

 反省することなく不可解な行動をとるコートンに対して、先生が命じたのは「シエンチアイーの前の席に座る」こと。シエンは、クラスで一番の優等生で、勉強ができ、男女から人気があり、ずば抜けた気品のある女子だ。「これからこの問題児は君にお願いする」と先生に言われたシエンは、しぶしぶこれを受け入れた。

 「こうして物語のカメラのフォーカスは、落書きだらけの壁から、シエンの気品ある美しい顔の、チャーミングなそばかすへと密かに移ってゆく。俺たちの青春は、こんなふうに始まった」
 「いつか超イケてる漫画家になる」と自信を漲らせ、勉強にはまったく無頓着なコートンだったが......。「コーチントン、授業中に騒ぐのって、幼稚だと思わない?」「あなたって本当はすごく頭がいいのよね。ちゃんと勉強したら、きっと成績はよくなるはずよ」と言ってくれる「口やかましい」「きれいな若いオバサン」のシエンとのささやかな関わりによって、コートンの人生は驚くほど矯正されていく。

 コートンと男仲間、彼らの憧れの的であるシエンが、中学生から高校生、大学生、社会人になっていく時代が描かれている。物語は当時のコートンの目線で語られるが、時折、数年後のコートンの目線が織り交ぜられている。青春時代の様々な出来事について、近距離と遠距離の両方から捉えているところが新鮮に感じた。自身のあの頃に置き換えてみても、当時はこう感じたけど、今の自分はこう助言してやりたい......そう思う場面はいくつもある。

 本書はあまり馴染みのない台湾の人名や地名が多く、やや戸惑うものの、台湾の若者や学校の様子がよくわかる。台湾の作家の作品は初めて読んだが、自伝的小説がこれほど面白い九把刀さんに興味を持った。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 あの頃、君を追いかけた
  • 監修・編集・著者名九把刀 著/阿井 幸作、泉 京鹿 訳
  • 出版社名株式会社講談社
  • 出版年月日2018年8月10日
  • 定価本体650円+税
  • 判型・ページ数文庫判・304ページ
  • ISBN9784065130612
 

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