辻村深月は『かがみの孤城』(ポプラ社)で2018年本屋大賞第1位を受賞した。本欄で紹介した本屋大賞受賞後第1作となる『噛みあわない会話と、ある過去について』(講談社)は、過去のある出来事について当事者間の認識にズレがあり、歳月を経て再会する場面で、一方に蓄積された負の感情が露呈する。人間関係のドロドロした裏の部分を、表に引っ張り出し、徹底的に書き尽くそうとする気迫に圧倒されたが、それは本書『太陽の坐る場所』にも共通している。
本書は「出席番号二十二番 半田聡美」「出席番号一番 里見紗江子」「出席番号二十七番 水上由希」「出席番号二番 島津謙太」「出席番号七番 高間響子」で構成され、高校の元クラスメイト5人の視点から描かれている。この他にも物語を左右する人物が数名登場する。登場人物が多い上に同じ名前もあり、相関図を書きながら読むと混乱しないかもしれない。
F県の高校を卒業して10年。28歳になった元クラスメイトたちの話題は、今を時めく人気女優となった「キョウコ」のこと。クラス会に欠席を続ける彼女を呼び出そうと、それぞれの思惑を胸に画策するが、「ミイラ取りがミイラになるように」一人また一人と連絡を絶っていく。
劇団員の聡美は、「キョウコと自分は、何が違ったのだろう」と、キョウコを羨ましく思う。マスコミの仕事をする紗江子は、女らしさという華がなく、周囲に哀れまれていると卑屈になる。ファッションブランドの臨時職員である由希は、デザイナーだと見栄を張る。銀行員の島津は、クラスの中心人物だった自分が職場で軽い扱いを受けていることを不満に思う。地元のテレビ局でアナウンサーになった響子は、クラスの「女王」として君臨したが次第に失墜していった過去がある。
3年2組の教室内の至るところに生まれた悪意、痛み。あれから10年を経た現在の挫折、嫉妬、希望。彼らは頻繁にクラス会を開催し、あの頃を大切にすると同時に、いまだにとらわれている。女優として活躍する「キョウコ」を物差しに、それぞれが現在の自分の価値を測ろうとする。その優越感、劣等感、虚栄心はどこから来るのか、誰のせいなのか? 「扉はどこにもなく、太陽はどこにあっても明るい」――。なるほど、自分が扉だと思い込んで閉じこもっても、そもそも扉はないのかもしれないし、いつも太陽を浴びているのかもしれない。
辻村深月は、1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。04年『冷たい校舎の時は止まる』(講談社)でメフィスト賞を受賞し、デビュー。11年『ツナグ』(新潮社)で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で直木賞を受賞した。『太陽の坐る場所』は、初出が「別冊文藝春秋」(2008年1月号~11月号)、08年12月に文藝春秋より単行本として刊行され、11年6月に文庫化された。14年には水川あさみ、木村文乃主演で映画化された。
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