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本屋大賞受賞後第1作! 辻村深月の短編集

噛みあわない会話と、ある過去について

 辻村深月の『かがみの孤城』(ポプラ社)は、2018年本屋大賞第1位を獲得し、50万部を突破した。不登校の少女が、鏡の中の世界で6人の中学生と出会うストーリー。著者は受賞後のインタビューで、「もしタイムマシンが開発されて、自分の本を何か一冊昔の自分に送れるとしたら、私は『かがみの孤城』を選びます」と語っている(ポプラ社公式サイトより)。

 本屋大賞受賞後の注目すべき第1作が、本書『噛みあわない会話と、ある過去について』(講談社)。過去のある出来事への怒り、悔しさなど、どうしても消せない感情を、いくらか解放した気分になれる1冊。

 「ナベちゃんのヨメ」「パッとしない子」「ママ・はは」「早穂とゆかり」の4作品を収録。恋愛対象から除外されたナベちゃん、教師からかわいがられなかった佑、母親から支配されたスミちゃん、同級生からいじめられたゆかり――。全作品に共通して、過去のある出来事についての当事者間の認識にズレがある。一方の中に、誤解や勘違いがじわじわと増幅する。歳月を経て、当事者同士が再会、またはその過去を語る場面を迎えると、一方に蓄積された不快感や怒りが剥き出しになり、もう一方は唖然とする。

 小学校教師の美穂と、元教え子で今や国民的アイドルの佑(「パッとしない子」)。地元でライターをしている早穂と、小学校時代の同級生で塾経営者として成功したゆかり(「早穂とゆかり」)。それぞれが再会し、双方の間に噛みあわない会話が繰り広げられていく。

 「早穂とゆかり」で、ゆかりが早穂に言い放つ「小学校時代のあなたたち、どうしてそんなに他人に興味があったの?」「そこまで強く相手を嫌って、バカにできる労力は、どこから来るの?」の台詞は、他人への嫌がらせ、いじめをする側の動機は何かを考えさせられる。やっている側にこの台詞を突き付ければ、ある程度抑止する効果がありそうだ。

 初め優勢にいた人物が途中から劣勢に立たされ、立場が完全に逆転し、とんでもない仕打ちにあう。本書の帯に「『知らなかった』は許されない」とあるが、過去のある出来事への怒りは消えることなく、機会を与えられればこうも激しくこみ上げるものかとぞくぞくする。本書は、人間の負の感情剥き出しの怖さがある。決してハッピーエンドではないが、読後にすがすがしさを残す。

 辻村深月は、1980年生まれ。千葉大学教育学部卒業。04年『冷たい校舎の時は止まる』(講談社)でメフィスト賞を受賞し、デビュー。『ツナグ』(新潮社)で吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で直木賞を受賞。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 噛みあわない会話と、ある過去について
  • 監修・編集・著者名辻村 深月 著
  • 出版社名株式会社講談社
  • 出版年月日2018年6月12日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784065118252
 

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