若手作家・清水晴木による本書『星に願いを、君に祈りと傷を』(株式会社KADOKAWA)は、著者の出身地である千葉県を舞台にした、天文部に所属する高校生の青春小説。爽やかな、淡い恋愛模様が描かれていると予想したが、物語の展開はやや意外だった。確かに、タイトルにある「君に祈りと傷を」は意味深だ。
「私は、早くベテルギウスが爆発してほしいと思っているよ」と、双葉は言った。「もしベテルギウスみたいな赤色超巨星が爆発すれば、三か月間もう一つ太陽ができたくらい光り輝く」「ガンマ線バーストによる、電気系統や人体への何か甚大な影響がある」可能性があるという。
双葉には、首から頬にかけて大きな傷跡がある。端正な顔立ちと近寄りがたい空気から、屋敷はそれまで彼女と話したことがなかった。「頬から首にかけて走る深い傷跡と美しい容姿のアンバランス感、彼女を取り巻く独特の空気が相まって、何か触れてはいけないものの象徴的な存在」であり、そんな双葉は屋敷の意中の人だった。この時屋敷は、双葉の笑顔を奪ったのが自分だとは思ってもいなかった。「僕が、その傷跡を消せればいいのに」とさえ願っていた。
ある時、双葉の幼い頃のアルバムを見た屋敷は、転校を繰り返してきた自分と双葉は、同じ頃同じ地域に住んでいたことを知る。「十年近い時を経て、再会するなんて、まるで彗星が地球に近づく周期のよう」と運命を感じる。ところが、当時の双葉の顔には、傷跡がない。双葉が顔に傷を負ったのは、一体いつ、何が原因だったのか?
第一章は、屋敷の視点から双葉への恋心が描かれている。一転して第二章は、双葉の視点から屋敷への復讐心が描かれている。第一章で屋敷が双葉に放った言葉は、第二章で双葉がどう受け止めていたのかがわかる構成になっている。
「私は、この世界に不幸が降りかかることを望んでいる。この醜い傷跡がついて以来、周りも同じように醜く傷つけばいいと思っていた」――。ある一つの出来事について、した側とされた側、加害者と被害者、その立場の違いによって、記憶も感情も違う形で残るのだなと思った。双葉の根深い復讐心がどう動き、変化していくのか、そこが二人の関係のカギになっている。
著者は1988年生まれ。2015年『海の見える花屋フルールの事件記 ~秋山瑠璃は恋をしない~』(TO文庫)で長編小説デビュー。他に『緋紗子さんには、9つの秘密がある』『体育会系探偵部タイタン!』(ともに講談社タイガ)など。出身地の千葉県を舞台にした作品を多く執筆している。
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