世界には様々な不平等があるが、なかでも男女間の不平等は、その存在を世界規模で認められている重大な不平等の一つだ・・・。そんな書き出しで本書『地図とデータで見る女性の世界ハンドブック』(原書房)は始まる。多数の項目ごとに、世界各国で「不平等」の実態がどうなっているか、データと地図で明示している。
日本の概況は知っていても、世界のすう勢がどうなのか、そのあたりまで目配りしたい人向けだ。データで見る女性学の入門書と言える。
男女平等の動きは20世紀に入って加速した。1945年に国連憲章で両性の平等がうたわれ、79年には女子差別撤廃条約が調印された。少し年配の人なら、このころ日本では様々な激しい女性解放運動があったことを思い出すだろう。国連による世界女性会議も70年、75年、80年、95年と開催されてきたが、21世紀に入っても男女平等を完全に実現している国はまだない。
本書は女性たちの目覚ましい躍進とそれを妨げている要因を推定するため、世界における女性の状況を示す120点を超える地図と図表などで、女性をめぐる最新状況を統計的に見なおす。
たとえば「中絶」という項目を見ると、ほぼ無制限で可能な国から禁止されている国までいろいろだ。大まかに言えば北米、欧州、中国、オーストラリアなどは是認組、中南米やイスラム圏は禁止が多い。では実態はどうなのか探ると、禁止国でも闇で中絶が行われており、危険な中絶の割合が高い。世界地図で色分けされているので、違いがくっきりする。
アフリカや南米では1000人当たり30人前後が危険な中絶にさらされていることがデータからわかる。合法的に中絶できない女性は、健康の危険に加えて、刑罰の対象にもなる。しかし男性は無罪放免だ。金持ちの女性は他国での中絶もできるが、貧しい女性は非合法の手術を受けるしかない。男女不平等、貧富の差が最も先鋭的に表れている。
本書ではこのほか「賃金」「同性愛」「結婚」「就学」「相続」など多数の項目で各国の女性の状況が比較されている。女性の参政権など、日本よりも早く実現している途上国が結構あることを知って、ちょっと複雑な気分になる。
本書は2015年に海外で刊行された原書の邦訳。編者のイザベル・アタネさんは人口学者、フランス国立人口統計学研究所(Ined)所属、社会科学高等研究学校(EHESS)の客員研究員。キャロル・ブリュジェイユさんも人口学者で、パリ第10大学(ナンテール・ラ・デファンス)教授、パリ社会科学・政治学研究センター(Cresppa)「ジェンダー、労働、移動性」研究室(GTM)研究員。ウィルフリエド・ローさんは社会学者で、フランス国立人口統計学研究所「人口、ジェンダー、社会」部門の共同責任者。このほか実際の執筆陣の名が20人余り巻末に並んでいる。いずれも海外の研究者で、邦訳は土居佳代子さん。
世界的視野で問題に取り組む女性研究者の名前が並んでいて壮観だ。
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