地方を旅して地元の人と知り合いになり、ウチに寄っていけと言われる・・・などということは最近ではあまりないかもしれない。ところが、本書『トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)では、そういうことがまだあるということを紹介している。
著者の松鳥むうさんは1977年、滋賀県生まれのイラストレーター。旅やグルメ関連の多数の著書がある。島好きで、これまでに訪れた国内の島は84島に上るという。
九州に住んでいる人以外で、トカラ列島がどこにあるのか、正確に言える人は少ないだろう。鹿児島の南の方にある島々を南西諸島という。順に紹介すると、まず種子島や屋久島があり、つづいてトカラ(吐噶喇)列島、さらに奄美群島、沖縄諸島、宮古列島、八重山列島が連なる。その先は台湾。
トカラには12の島が点在し、有人は7島。それぞれが小さくて人口が少ないから南西諸島の中でもとりわけ存在感が薄い。7島合わせて700人ほどしか住んでいない。多い島で100数十人、少ない島は数十人。行政区は十島村で最北の口之島から最南の横当島までの距離は直線で約160km。日本一長い村として知られる。飛行場もないから、島に行くには鹿児島から週2便のフェリーに乗るしかない。一番近い島まで6時間ほどかかる。
というわけで松島さんもフェリーに。船上ではすぐにビールや焼酎の輪ができる。同じ島の人たち同士かと思いきや、それぞれ違う島。互いに顔見知りのようだ。松島さんは初めて顔を合わせたオッチャンから「黒石島に来たら、遊びにおいで」などと声をかけられ、小宝島のおばちゃんからは握りずしのおすそ分けをいただく。あっというまに長年の知り合いになった気分だ。
本書はその有人7島のそれぞれに出かけた著者の現地報告だ。手書きの地図やイラストもまじる。個々の島は、いわば絶海の孤島だから手つかずの自然が残る。たとえば口之島には野生の牛がいるし、中之島には「トカラ馬」という日本在来種の馬がいる。火山地帯なので秘湯だらけ。ちなみにこのトカラ列島の黒石島と小宝島の間で、ハブが生息するかどうか分かれるという。
展望台と称するところにたどり着くのも探検状態になる。島で一番高い山に上るのはさらに一苦労。山道の両脇には背丈を超える野草が生い茂る。やっとのことで山頂に着いたとたん視界が一気に開け、眼下に青々とした海が広がる。
「大自然が魅力、活火山の島」「いにしえの風習が残る平家伝説の島」「来訪神が現れる神秘の島」「うね神が見守る奇岩の島」「海賊の財宝が眠る!?宝の島」など見出しを眺めるだけでも秘境感が漂ってくる。著者がとりこになり、何度も足を運んだということがうなずける。地元の人との心温まる交流も記されている。民宿案内など掲載され観光ガイドにもなっている。意外な穴場かもしれない。
BOOKウォッチでは『秘島図鑑』『秘境駅の謎』なども紹介している。
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