『居酒屋ぼったくり』の著者、秋川滝美さんの新刊小説『向日葵のある台所』(株式会社KADOKAWA)が出た。『居酒屋ぼったくり』(アルファポリス)は、下町のほのぼのとした人情味のある居酒屋が舞台で、書籍、コミック、文庫化され累計65万部、今年(2018年)春にはテレビドラマ化された人気コンテンツだ。ところが本書は母親の介護をめぐり、姉妹が対立するというシリアスな内容。「これを書くために小説家になった」という秋川さんの自信作だ。
学芸員の麻有子(46)は、東京の郊外で、中学2年生の娘・葵と穏やかに暮らしていた。ところがある日、姉の鈴子から「母が倒れたので引き取ってほしい」という電話がかかってくる。母とも姉とも折り合いが悪かったため田舎を出て、東京の大学に入り、働いていたのにと思いながら、駆けつけると、引き受けざるを得なくなってしまう。
「いったん引き受けて、やはり居心地が悪いと自主的に戻ってもらおう」という葵の提案を受けて、絶縁状態だった母との同居が始まった。ひとつきたち、やがて5か月がたち、麻有子と母はじっくり向き合うことに......。
しかし、はやりの介護をテーマにしたぎすぎすした小説ではない。「すとん、すとん、すとん、すとん......」胡瓜を薄切りにする包丁の音から作品は始まる。麻有子は薄く切った胡瓜を和え物にしたり、乱切りにして塩昆布とごま油で和えたりと、胡瓜は欠かせない食材だ。
切った胡瓜に粗塩を振り、20分待つ。その後、水で塩を洗い流す。ひと手間が大事だと母にたたきこまれたのだった。この冒頭のシーンの意味が読み終わり、ふたたび胸にせまってくる。
生活のひとこま、ひとこまがとても大切に書かれた作品だ。グラタンのホワイトソースも手作りする。「牛乳に小麦粉とバターとコンソメキューブを入れ、くるくるとかき混ぜながら温めていく」。時短になるし、ダマにもならず焦げもしないうまい方法だ。簡単な材料をつかい、ひと手間かけて料理する。『居酒屋ぼったくり』で鍛えた料理の腕は本書でも健在だ。
家族関係のしこりも長い時間かけておかしくなったのだから、ゆっくりと時間をかけて解決するしかないだろう。本書のシリアス・まじめ路線は、秋川さんの新たな引き出しになるかもしれない。
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