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失恋延長戦の敗者が、どう復活を果たす?

失恋延長戦

 本書『失恋延長戦』は、BOOKウォッチで紹介した『ミックス。』(ポプラ社)の著者・山本幸久による恋愛小説。2010年に祥伝社より単行本として刊行され、13年に文庫化された。「失恋延長戦」と「敗者復活戦」から成り、短編の「敗者復活戦」は文庫化にあたり書き下ろされた。

 物語の時代設定は「大昔のことだ。スマップがまだ六人で、ドリカムも三人だった」とあるので、1990年代前半だろう。高校1年生の主人公・米村真弓子が高校時代、浪人時代の紆余曲折を経て、30代になって最後に登場する。

 高校1年生の真弓子は、同じ放送部に所属する大河原くんに片思い。真弓子のそばでいつも見守っているのは、柴犬のオス・ベンジャミン。ベンジャミンは、真弓子と言葉による意思疎通ができ、犬というより人間に近い。

 真弓子が大河原くんを意識するようになったきっかけは、放送部の夏合宿の発表会でミスをして落ち込んでいた時、「おれ、米村って、声はいいと思うよ」と声をかけてくれたことだ。以来、自ら持て余すほど真弓子の大河原くんへの気持ちは増す一方。だが、決して誰にも打ち明けることはない。

 真弓子は高校3年生になり、大学受験を控えていた。そこに現れたのが、放送部の1年生で大河原くんの彼女、蔦岡るい。るいの可愛さは認めざるを得ない。物語は、さらに暗雲が立ち込める展開に。翌年、真弓子は大学受験でどこにもかすりもしなかった。大河原くんは東京の大学に進学した。その翌年、真弓子は「二十歳で二浪、高校時代の片思いの男の子に、いまだ未練たらたら」な状態で、大河原くんに会いに東京へ行く。「あたしはあなたが好き。高1の夏合宿からずっとお慕い申しておりました」。大河原くんへの気持ちを再確認した真弓子は、この片思いにどう決着をつけるのか――。

 「敗者復活戦」が、三十路のるいを主役にして描かれていることは意外だった。恋の成就と失恋、受験の合格と不合格、就活の採用と不採用など、1つの出来事を切り取ることで、それが良かった・悪かったと結論づけることはできる。ただ、こうして長いスパンで俯瞰すると、その時の自分にとって最大の不幸な出来事が、後々全く逆に思えることもある。ずっと勝者、ずっと敗者ということはなく、誰もが両方を経験するのだなと、楽しく読みながら気づかされる。

 著者の山本幸久は、1966年東京都生まれ。中央大学文学部を卒業後、会社勤務を経て、編集プロダクションに勤務。03年「アカコとヒトミと」(後に『笑う招き猫』に改題)で小説すばる新人賞を受賞し、デビューした。「独特のかろやかな筆致で、心はずませる魅力的な人物や物語を描き出す手腕に定評がある」と本書の著者紹介にある。本書もテンポが良く、笑える箇所が散りばめられている。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 失恋延長戦
  • 監修・編集・著者名山本 幸久 著
  • 出版社名株式会社祥伝社
  • 出版年月日2013年7月30日
  • 定価本体619円+税
  • 判型・ページ数文庫本・331ページ
  • ISBN9784396338572
 

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