今年(2018年)3月『拝啓、本が売れません』(KKベストセラーズ)が刊行された。著者は、15年に松本清張賞と小学館文庫小説賞をダブル受賞してデビューした「平成生まれのゆとり作家」額賀澪。内容は、出版不況の中、自分の本を売っていく方法を探るため、担当編集者と多方面のキーパーソンに取材するもの。巻末特別付録として、本書『風に恋う』(文藝春秋)の一部が先取りで掲載された。
『風に恋う』の舞台は、埼玉県にある吹奏楽の元強豪校・千間学院(通称・千学)高校吹奏楽部。突然部長に指名された高校1年生の茶園基(ちゃえんもとき)と、千学吹奏楽部OBで黄金世代を築いた不破瑛太郎(ふわえいたろう)が主役。
基は、中学の3年間を吹奏楽漬けで過ごしたが全日本コンクールの出場は叶わず、高校では吹奏楽から離れるつもりでいた。憧れだった千学吹奏楽部は、近年弱体化し、かつての栄光の見る影もない。
ところが、吹奏楽部の勧誘を受けて音楽室に入った基の前に、黄金世代の部長・瑛太郎がコーチとして現れる。基は憧れの瑛太郎を前に、入部を決める。地区大会、県大会、西関東大会、全日本コンクール。埼玉県は強豪校がひしめく吹奏楽大国。目標への道のりは長く険しい。瑛太郎は「一緒に全日本吹奏楽コンクールに行く部を作ろうか」と、基を部長に指名する。
部内に渦巻く嫉妬、プライド、大学受験のプレッシャー、64人から55人を選抜する酷なオーディション、ブラック部活問題。果たして彼らは、最終目標である全日本コンクールの開催地・名古屋へ行けるのか――。
20代半ばの瑛太郎が、輝いていた高校時代の自分と現在の自分のギャップに悩む姿が描かれている。瑛太郎は、高校生の熱量と輝きを羨ましく感じ、吹奏楽の世界で、永遠にコンクールを目指していたかったのかもしれないと思う。それでも、何者にもなれていない自分を次の段階へ進めようともがく姿に、共感する。
著者は日大出身ということもあり、5月に報道された日大のタックル問題を受けて、ほぼ完成していた本書の原稿に手を加えたという。「ありとあらゆるものを犠牲にして練習しないと上手になれないのが、音楽なんだろうか。僕達は、音楽がそんな非情なものだから吹奏楽を好きになったのだろうか」と、ブラック部活問題に対する著者のメッセージが込められている。
著者の額賀澪は、1990年茨城県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、広告代理店に勤務。15年『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞受賞。同年『ウインドノーツ』(単行本改題『屋上のウインドノーツ』)で松本清張賞受賞。文藝春秋の公式サイトでは、本書を紹介する著者の映像を観ることができる。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?