評者が以前働いていた職場からは、東京湾岸地区にそびえ立つタワーマンションがいくつも見えた。「あそこに住んでいる人たちはどんな暮らしをしているのだろう?」と想像したが、なにも思い浮かばなかった。上層階ともなれば1億、2億をくだらない高価格物件。医師、会社経営者、中国人投資家など「お金持ち」しか手が届かないと噂されていた。そんな超豪華マンションに想像力のメスを入れたのが、いま最もノッてる女性作家といわれる桐野夏生さんだ。
前作『ハピネス』(光文社)は、憧れのタワマンに入居した岩見有紗が主人公。おしゃれなママたちのグループに入ったが、分譲と賃貸ではいろいろ格差もあれば、派閥もある。ママ友にはさまざま秘密があり、親同士でダブル不倫のカップルも。そんなママ友と有紗のその後を描いたのが本書『ロンリネス』(同)だ。
賃貸でタワマンに住みながら、娘を私立小学校に入れようとする有紗に対して著者はいささか手厳しい。門前仲町の寿司屋でパート勤めしながら、3泊4日で11万5千円もする「自然体験教室」に娘を通わせようという有紗と夫をいきなり夫婦喧嘩させる。悪く言ってしまえば、「身の程知らず」の愚妻のように描いている。東京郊外出身の夫は、高い(フロアも家賃も)タワマン暮らしにはなじめない。また地方出身の有紗には東京の「お受験」事情の微妙な塩梅はわからない、と思っている。この夫婦に限らず、ここに登場する夫婦には、それぞれ差異や亀裂があり、修復するカップルもあれば壊れてしまう夫婦もある。
このあたりテレビドラマ的な展開もあるが、やはり文学でしか描けない境地もある。ワンフロア下の階に住むサラリーマンの高梨に有紗は好感をもつが、「僕はあなたとは寝ないつもりです」と告げられる。その上で付き合おうというのだ。
この欄では先日、『不倫』(文春新書、中野信子著)を紹介したが、日本の不倫率は世界でもトップクラスのようだ。本書に登場するカップルもほとんどが不倫している。現実に小説が追いついたような感じさえする。
それにしても、憧れのタワマンを「不倫の巣」として描いた桐野さんの作家魂には感服した。さすが女性雑誌「VERY」の好評連載だけある。この続きはまだありそうだ。
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