いまや「怪談師」という職業があるそうだ。有名どころでは稲川淳二さん。長年全国ツアーをするほどの人気だ。彼らが語るのは「実話怪談」というジャンル。各地で取材した実際にあった「怖い話」を披露するという。
なぜ、一部の人は「怖い話」が好きなのか。自身、ホラーや怪談があまりに好きすぎてホラー作家になったという平山夢明さんが、本書『恐怖の構造』(幻冬舎新書)の著者。さまざまな映画や小説を題材に「恐怖とは何か」を探る。暑い夏向きの一冊だ。
平山さんは、実話怪談でキャリアをスタートさせ、『独白するユニバーサル横メルカトル』で日本推理作家協会賞短編賞を受賞するなど稀代のホラー作家として知られる。タイトルは研究書風だが、どこから読んでも楽しめる。
なぜ人間は、日本人形やフランス人形など「人間の形をした人間ではないモノ」を恐れるのか、また日本人が「幽霊」を恐れ、アメリカ人が「悪魔」を恐れるのはなぜかなど話題は豊富だ。人間が恐怖や不安を抱き、それに引き込まれていく心理メカニズムを解き明かす。
読み応えがあるのは、第3章「なぜ恐怖はエンタメになりうるのか」の項だ。「エクソシスト」や「サイコ」など、ホラーの名作を徹底分析して、その恐怖の原因を分析している。たとえば「エクソシスト」では、監督のウイリアム・フリードキンの「狂気」が役者を「不安」にさせ、それが観客に伝染するから怖いのだという。
人間にとって本当にやっかいなのは恐怖よりも「不安」だというのが平山さんの持論のようだ。若者は将来の明るい可能性とともに「すべてうまくいかない可能性も秘めている」。そうした絶望の不安を抱えているからこそ、不安を解消するためホラーを好むのだ、と分析する。「危ない場所へ行ったらこうなるかもしれない」。そんな未知の要素を解明したい欲求がある。ホラーを通じて学習、経験しているのでは、とみる。
ラジオでパーソナリティをしていた経験もある平山さんだけに、語り口は実にわかりやすい。川崎育ちで体験した幼少期の「怖い」話なども「怪談」並みに楽しめる。ホラー作家なので、怖い気難しい方かと思っていたら、さにあらず。ホラー小説の書き方や実話怪談の取材のコツを明かすなど、ホラー作家志望者へのアドバイスも充実、実に親切な内容だ。
巻末には精神科医・春日武彦さんとの対談「恐怖が快楽に変わるとき」を収録している。
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