読むべき本、見逃していない?

アメリカは真珠湾で「奇襲」を待ち構えていた?

知らなかった、ぼくらの戦争

 詩人のアーサー・ビナードさんが戦争体験者や研究者の日本人を訪ねてインタビューし、それをまとめたのが本書『知らなかった、ぼくらの戦争』(小学館)だ。23人が登場する。有名人もいるが、大半は一般人だ。前線で戦った元兵士から当時の女学生まで多彩。どこかで聞いたような話から、「知らなかった」エピソードまで、盛りだくさんな内容だ。

「戦後」という言葉にとまどう

 もともとは文化放送のラジオ番組「アーサー・ビナード『探しています』」で2015年4月から16年3月までに放送されたもの。それを加筆修正して再構成し、単行本にした。この番組は日本民間放送連盟賞の2016年番組部門「ラジオ報道番組」最優秀賞に選ばれている。

 ビナードさんは1967年、アメリカのミシガン州生まれ。90年に大学を卒業して来日し、日本語で詩を書くようになる。2001年、詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞受賞。エッセイ『日本語ぽこりぽこり』(小学館)で講談社エッセイ賞受賞、絵本『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』(集英社)で日本絵本賞受賞など、詩、エッセイ、絵本と大活躍中。テレビやラジオの出演も多い。

 日本語を学び始めたころ、とまどったのは「戦後」という言葉だったという。日本人なら誰でも、戦争と言えば太平洋戦争、あるいはその前からの「15年戦争」のことであり、戦後とは1945年以降のことだと認識するが、米国人ビナードさんにはピンとこなかった。もちろん英語にも、「戦後」に相当する「postwar」という言葉はあるが、何しろアメリカはしょっちゅう戦争をしているので、それが第二次世界大戦後のことなのか、朝鮮戦争後のことか、あるいはベトナム戦争後のことなのか、いちいち注釈が必要になる。

 「戦後」というだけで、「あの戦争」が想起される日本と、常に戦争を続け、「戦後」のないアメリカ。縁あって日本語を学び、日本に住むことになったアメリカ人が、「戦後」というキーワードを通して日本と日本人に迫ったのが本書だ。

航空母艦が一隻もいない

 たくさんの興味深い体験談が出て来るが、一つ紹介するなら、真珠湾攻撃に参加した原田要さんの話かもしれない。ゼロ戦パイロットとなり、真珠湾攻撃では艦隊の護衛任務に就いていた。攻撃から戻ってきたパイロットに「空母は何隻いたのか?」と聞くと、「一隻もいなかった」。

 航空母艦というのは、戦艦、巡洋艦、駆逐艦などとは全く異なる能力を持つ。それが一隻もいないとはどういうことか。原田さんは直感した。「アメリカは日本の攻撃を知っていたに違いない」。航空母艦をよそに逃がして、わざと隠したとしか思えなかったという。「みんな喜んで日本が勝ったようなつもりでいるけど、とんでもない。アメリカの航空母艦をひとつもたたけなかったということは、えらいことだ。たいへんなことになるよ」と当時、話したという。

 同じような思いは、ビナードさんにもあった。アメリカで繰り返されている「神話」は胡散臭くないか――「日本は真珠湾に卑怯な奇襲攻撃をかけ、多くの尊い命が失われた。正義の反撃はそこから始まった。原爆は当然の報いだ」

 結果的に、日本軍の「奇襲」は、ルーズベルト大統領の「参戦」に格好の口実となった。戦力的な価値が低いアリゾナ艦などを無防備に並べ、重要な航空母艦はどこかに退避。こうして「開戦」の火ぶたが切られたのではないか。プロのカメラマンがロケハンまでしてばっちり撮った真珠湾攻撃の実写フィルムが、瞬く間に全米に広がり、開戦に否定的だったアメリカの世論もがらりと戦争賛成に変わったとみる。

仏印進駐で小学校にゴムマリが届いた

 航空母艦を仕留めていないことを知りながら、「勝った勝った」と戦果をPRし、戦争に突き進んだ日本と、連合艦隊が迫ることを察知しながら「奇襲」させた疑いがあるアメリカ。真相は不明だが、ここで語られているのは、戦争のオモテとウラだ。わかりやすいストーリーが作られ、メディアが増幅し、国民はプロパガンダに乗せられる。真実はその通りなのか、それともウラがあるのか。

 本書のあちこちで語られるのは、そうした「神話」に乗せられた人たちの情けなくも腹立たしい思いだ。

 たとえば、ビナードさんの妻(日本人)の母親の話。戦争がはじまったころ、埼玉県で小学生だった。物資不足で特にゴム製品が貴重だった。子どもたちはゴムマリが欲しかったが、代用品で済ませていた。ところが、日本軍の仏印進駐で、とつぜん学校にゴムマリが届いた。「戦争に勝つとゴムマリが来る」。バンザーイ、バンザーイ。仏印進駐の成果を、ゴムマリ配給という具体的な形で、子どもたちに実感させた当時の日本の姿が浮かび上がる。もっともゴムマリは二度と届かなかったそうだ。

 本書ではアニメ作家の高畑勲さんや、沖縄知事だった大田昌秀さん、漫画家のちばてつやさん、落語家の三遊亭金馬さんなども登場する。すでに亡くなった人もいるので貴重だ。日本人がインタビューしたなら、真面目になりすぎる話が、外国人、それも詩人のビナードさんが聞き手なので、ふくらみのある物語となっている。

  • 書名 知らなかった、ぼくらの戦争
  • 監修・編集・著者名アーサー・ビナード 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2017年3月28日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・255ページ
  • ISBN9784093885089

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