読むべき本、見逃していない?

東京新聞が「2020東京五輪」を懸念している

ブラックボランティア

 世の中には、困っている人のために何かをしたいと考える人がいる。代表格がボランティアだ。今度の西日本水害でもたくさんの人が現地入りしたと聞く。

 2020年の東京五輪では早々とボランティア募集の話が広がっている。でも、何かちょっと変だなと感じている人も少なくないようだ。ネットではそういう意見も目立つ。本書『ブラックボランティア』(角川新書)はそんな人の疑問に答える。

なぜ人件費が払われないのか

 日本財団の最新の意識調査によると、東京五輪のボランティアに参加を希望している人は57%。「一生に一度の経験」「世界的なイベントに関われる」など前向きな人が過半数を占めている。首都圏に住む20~60代の3800人の調査だ。実際の募集は今年9月から始まる。「10日以上、1日8時間程度活動できる」などが条件になるというから、普通の会社員にはなかなかハードルが高い。

 本書の著者、本間龍さんは1962年生まれの著述家。2006年まで大手広告代理店の博報堂で営業を担当していた。広告業界については詳しい。『大手広告代理店のすごい舞台裏』『原発広告』『原発プロパガンダ』『メディアに操作される憲法改正国民投票』など多くの著書がある。

 問題意識は明確だ。「2020年、東京五輪のスポンサー収入は推定4000億円以上。ボランティア11万人は10日間拘束で報酬ゼロ。しかも経費は自己負担」。ちょっとブラックぶりがひどすぎませんか、ということだ。

 大イベントには「係員」がつきもの。現場スタッフがいなければ運営できない。ただし入場整理や誘導なども含めて主催者がイベント運営会社と契約し、その会社が調達した人材によって有料で運営されている。オリンピックが純粋なアマチュア精神で行われるのならともかく、現在はビジネス化が進んでいる。スポンサー料によって巨大経費で賄われている。にもかかわらずなぜボランティアなのか。彼らに人件費を払ったところで110億円程度にしかならないと、著者は試算する。

メディアの「翼賛体制」進む

 過去に長野五輪では約2万5千人のボランティアを集めたという。大会の規模や東京という開催地の利便を考えれば11万人という募集枠は簡単に埋まりそうな気もする。評者の周囲でも、英語が話せるのでお役に立ちたいとか、市民マラソンのランナーなので、今度はボランティアで参加したい、などと口走っている主婦や中高年層もいる。問題は真夏の大会ということだ。一歩間違えば、ボランティアに健康被害が出かねない。

 まだ募集が始まっていないこともあって、今は嵐の前の静けさ。著者の見方は手厳しい。大手メディアは抱き込まれ、スポーツジャーナリストも、この問題を追及すると業界から干されるため大きな声をあげない。ともに自己保身に走っている、というのだ。ゆえに率先して「五輪の利権構造とボランティア搾取」について警鐘を鳴らす。

 著者が繰り返し指摘するのは、五輪は商業イベントという現実だ。74ページから76ページにかけてスポンサー企業の名前が並んでいる。金融、生保、食品などから新聞社まで壮観だ。こうした企業の社員たちはボランティアに駆り出されるのだろうか。すでに組織委員会は全国の大学と連携協定を結び、「学徒動員」を図っているとも。確かに運動部系の学生は有力候補だろう。授業の単位になるという話もあるそうだ。さらには「中高生枠」も検討されているという。

 ちょっと笑ってしまうのは、五輪のおひざ元の東京新聞だけが、メディアの中で正面から「無償ボランティア問題」を取り上げているという指摘だ。すでに「『もうけ』還元必要」という見出し付きの記事を掲載し、「中高生枠」のボランティアについても「酷暑予想、体調崩す恐れ」「強制参加 ノーと言えない空気」などの「懸念」を伝えている。

 著者は2018年5月29日から6月1日にかけてメディア各社に「貴社は、東京オリンピックのボランティアは『無償』で良いのか」などという質問状を出した。朝日新聞が「報じている。今後も報じる」、NHK、日経、TBSが「お答えしかねます」。他は無回答。著者は「東京五輪」について、メディアの翼賛体制が作られつつあることを強く危惧している。

  • 書名 ブラックボランティア
  • 監修・編集・著者名本間 龍 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年7月 7日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書・224ページ
  • ISBN9784040821924

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