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日本人はなぜゴッホが好きなのか

  • 書名 ゴッホのあしあと
  • サブタイトル日本に憧れ続けた画家の生涯
  • 監修・編集・著者名原田マハ 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2018年5月30日
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書判・157ページ
  • ISBN9784344985032

 日本人は西洋絵画の中でも印象派が大好きだ。とりわけゴッホのファンが多い。「耳たぶを切った」狂気を宿した画家だとか、生前は評価されず死後名声を上げた不遇の人生が、なぜか日本人の琴線にふれるのだろう。その理由に迫ったのが本書『ゴッホのあしあと』(幻冬舎)だ。著者の原田マハさんは、ニューヨーク近代美術館に勤務したこともある元学芸員で、画家の生涯を追った小説をいくつも書いている。本書もゴッホをモチーフにした小説『たゆたえども沈まず』を執筆した過程で知った事実がもとになっている。

 原田さんは「狂気と情熱の画家」というゴッホにつきもののフレーズが気になり、展覧会でもゴッホの作品は敬遠していたという。それでもなぜ日本人はゴッホが好きなのか、印象派にひかれるのかという疑問に答えるため、『たゆたえども沈まず』を書こうと思ったそうだ。

 結論から言えば、ゴッホが日本で人気なのは、他の印象派の画家と同様に日本の浮世絵の影響を受け、作風が大きく変わるほど日本の美術を愛していたからだ、と原田さんは指摘する。溪斎英泉の浮世絵「雲龍打掛の花魁」を模写した「花魁」という作品も残っている。オリジナルと反転した構図になっているのは、反転した雑誌の表紙を参考にしたからではないか、と原田さんは推測する。

 ゴッホは1890年に亡くなり、その20年後に日本の白樺派の作家たちがゴッホを紹介したため、早くもゴッホの追いかけとでもいうべき画家たちが登場したという。言ってみれば、ゴッホと日本人は相思相愛なのだ。

ジャポニスムの立役者となった日本人

 日本と印象派をつないだ一人の日本人、林忠正(1853~1906)の存在に原田さんは注目し、小説の中核に据えた。富山県高岡市の出身で、東大の前身となる学校でフランス語を勉強し、パリ万博の通訳として渡仏。その後、パリで画商となり、浮世絵を中心に多くの日本の美術品をヨーロッパに売ったという。ゴッホと林が交流した証拠はなかったが、「交流したかもしれない」と小説を創作した。売れない絵描きのゴッホはパリから都落ちして、「自分だけのユートピア、日本を探しに」アルルへ旅立った、と原田さんは推理する。

 「耳たぶ切り」の逸話にしても、「耳たぶの先端をちょっと切っただけ」で、実際は狂気の人ではなく、「少なくとも絵を描いているときは、まともだったと思います」と「ゴッホ狂人説」を否定する。

 本書の第5章は「ゴッホのあしあとを巡る旅」として、パリを中心にアルル、オランダ、ベルギーのゆかりの地を紹介している。また日本でゴッホ作品を見ることのできる美術館として、ひろしま美術館(広島市)とポーラ美術館(神奈川県箱根町)を推薦している。

 本書は小説を執筆する過程から生まれた副産物だが、日本でほとんど知られていない「ジャポニスムの陰の立役者」林忠正を正確に記述した点で、今後の美術史研究にも資するところがあると思う。さすが元学芸員だけのことはあると感心した。本欄ではすでに原田さんの『いちまいの絵』も紹介している。   

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